技術研究組合光電子融合基盤技術研究所(PETRA)は,通信波長帯の光信号を低損失で伝送できる光IC・光ファイバー間の3次元光配線技術を世界で初めて開発し,次世代標準である112Gb/sの光信号を80℃超の高温環境下での伝送に成功した(ニュースリリース)。
高速大容量光伝送を低消費電力で実現するために,LSIとシリコンフォトニクスによる光ICを統合したコパッケージが注目されており,2020年末には112Gb/sの高速光信号で動作するコパッケージの標準化議論が開始されている。
しかし,現在のコパッケージで採用が検討されている,複数のモジュール型の光ICをLSIから離れた基板端面に電気配線で接続する方式では,電気配線が長いことで消費電力が増大し発熱が増えるため,51.2Tb/sの処理が限界だといわれており,その低消費電力化とさらなる高速処理のための技術が求められていた。
導波路を通過する光の断面積は,光ICを構成するシリコン光導波路中とポリマー光導波路中で10倍以上異なる。また両者の屈折率も大きく異なるため,通信波長帯でそのまま接続すると大きな光損失が生じる。このため,接続部分には光のビーム形状を変換させる技術が求められていた。
今回,シリコン光導波路からの出力光に対して,垂直方向に反射させる非球面ミラーを基板上に形成することによって光のビーム径を最適に制御し,さらに上部の45度ミラーと併用することで,光の経路を3次元的に自在に制御した上でポリマー光導波路へ接続する,3次元光配線技術を用いたマイクロミラーを開発した。
しかし,この3次元マイクロミラーは熱膨張係数が2桁異なるシリコンとポリマーを用いているため,高温動作における影響が懸念されていた。また,高速光信号ではシリコン光導波路,マイクロミラー,ポリマー光導波路間の多重反射などによって波形が劣化する可能性もあるため,高温下で高速光信号による動作検証を行なった。
まず25℃において,コパッケージの次世代標準としても想定されているPAM4(4値パルス振幅変調)方式を用いた,1チャンネルの伝送レートが112Gb/sの光信号を光伝送した後,データセンターの運用で必要とされる85℃の高温下でも実証を行ない,共に目立った信号波形の劣化なしに光伝送できることを確認した。
今後この成果を活用し,データセンターおよびコンピューター内で光回路を実装し,LSI間の情報伝送速度の高速化と低消費電力化を目指す。その後,50Tb/sの処理が可能なコパッケージの研究開発を行ない,CPUやサーバーの大幅な電力量削減を目指すとしている。