名古屋工業大学の研究グループは,光照射において異なる波長の光を用いることで,光触媒材料であるSrTiO3の結晶表面と内部の再結合寿命を分離して,数値化することに成功した。さらにSrTiO3の電気伝導率を上げるために添加する不純物ニオブ(Nb)が再結合寿命に与える影響を明確化した(ニュースリリース)。
人工光合成技術を実現する手法として,光触媒を用いた水の分解が期待されている。チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)はその光触媒材料として期待されるペロブスカイト型構造を有する結晶材料であり,紫外領域の光において量子効率100%近くを示す材料として注目されている。
光触媒反応の進行過程において,キャリアが光触媒内部で再結合により消滅すると,太陽光からのエネルギー変換効率が上がらない。そのため,光触媒の構造をキャリアの再結合を抑制する形状にする必要があるが,そのためにはキャリアの再結合寿命がどの程度の値なのかを知る必要がある。
また,キャリアの再結合寿命は表面と内部で異なるため,それらを分離して数値化する必要と,不純物がキャリア再結合に与える影響を明確にする必要がある。
研究では,SrTiO3に2つの異なる波長(266nm,355nm)を用い,キャリアの再結合寿命の測定を行なった。波長を変えることでSrTiO3内部のキャリアの分布を変えることができ,266nmでの測定では表面近くを,355nmでの測定ではSrTiO3内部の寿命を観測できる。この測定を複数種の結晶面に対して実施し,結晶面の間に大きな相違はないことと,表面での再結合寿命はおおよそ106cm/sという値,内部の寿命はおおよそ90nsであることを明らかにした。
一方,純粋なSrTiO3は絶縁体であり,そのままでは材料内部でキャリアを動かすことができない。そこでキャリアを動かすための不純物の一つにニオブ(Nb)がある。不純物が入るとキャリア再結合寿命も影響を受けるので,Nb濃度を変化させたSrTiO3に対してキャリア再結合寿命を様々な温度下において測定した。その結果,Nb濃度が高いとキャリア再結合寿命が短くなり,Nb濃度を0.01重量%に抑制すればキャリア再結合寿命に与える影響は少ないことがわかった。
これにより,人工光合成におけるエネルギー変換効率を高めるためのSrTiO3光触媒の構造・不純物濃度の最適化が可能となる。さらに光触媒製造においてどの程度の構造のばらつきが許容されるのかの指針を得ることができる。これは,光触媒による人工光合成技術の実用化・産業化に向け,重要な成果だとしている。