理研ら,三種の光を感知する光受容体を発見

理化学研究所(理研),国立環境研究所,静岡大学,水産研究・教育機構,東京大学,お茶の水女子大学は,東北地方の沿岸・沖合域で得られた海洋モニタリングメタゲノムデータを利用し,海洋に広く分布する微細藻から三種の光を感知する新規の光受容体を発見した(ニュースリリース)。

海水は,400~700nmの光のうち,長波長の赤色光(620~700nm)はあまり通さず,短波長の青色光(450~500nm)を深部まで通す。そのため,海洋藻類にとって青色光の利用が重要となる。

光受容体は特定の波長の光を吸収することで光を感知する。そのうち,青色光の光受容体であるクリプトクロムは,微生物から哺乳類,植物まで幅広い生物が保有しているが,
海洋性の微生物が持つクリプトクロムについての知見は限られていた。

研究グループは今回,新しいクリプトクロム様遺伝子を探した。探索には2012年から約4年間,仙台湾と北海道・東北沖で実施された海洋モニタリングによって集められたデータの一部を利用した。

海洋メタゲノムデータからクリプトクロムの遺伝子を探した結果,クリプトクロムと赤色光の光受容体であるフィトクロムが融合した光受容体の遺伝子を発見し,「デュアルクロム」と名付けた。また,デュアルクロムは,プラシノ藻の一種であるピクノコッカスの遺伝子であることも分かった。

融合した遺伝子がコードするタンパク質の吸収波長を調べた結果,前半のフィトクロム部分では赤色光より少し短い波長の橙色光(590~620nm)を吸収した。陸上植物のフィトクロムは赤色光で活性化され,遠赤色光(700~800nm またはそれ以上)で不活性化される可逆性が知られているが,ピクノコッカスでは橙色光/遠赤色光による可逆性を確認した。一方,後半のクリプトクロム部分においては,青色光を吸収することを確認した。

ピクノコッカスは海産の単細胞性藻類で,光の強い海洋表層だけでなく,あまり光が届かない水深でも生息できる。ピクノコッカスの培養株の完全ゲノム配列を決定したところ,デュアルクロム以外の光受容体遺伝子や,強光や弱光に適応するための遺伝子の存在も判明した。

今回,ピクノコッカスでは,別々の光受容体の遺伝子が融合し,一つの光受容体として協調的に働くことで,海洋環境にてより確かな光受容を可能にする能力を生み出していることが推察された。

ピクノコッカスを含む浮遊性微細藻類は,海洋におけるCO2固定に重要な役割を果たしており,この成果は今後のCO2固定の研究開発に寄与するものだとしていている。

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