農大ら,光合成生物の硫酸多糖の合成・調節を解明

東京農業大学生と東京大学は,光合成微生物であるシアノバクテリアの一種Synechocystis sp. PCC 6803(S6803)が,新規硫酸多糖を細胞外に蓄積することでアオコとよく似た凝集体を液面に形成することを発見し,その硫酸多糖の合成と制御に関わる遺伝子を網羅的に同定した(ニュースリリース)。

微生物が細胞外に放出,蓄積する多糖である細胞外多糖は,微生物においてバイオフィルム形成,ストレス耐性,運動性などの重要な機能に関わっている。また,人間社会においても,食品,食品添加物,化粧品材料,医薬品などの様々な目的で利用されている。

植物と同様の光合成をおこなうシアノバクテリアも,他のバクテリアと同様に多様な細胞外多糖を作ることが知られている。しかし,硫酸多糖(硫酸基によって修飾された多糖)は,バクテリアの中ではシアノバクテリアにしか見られない。

硫酸多糖の多くは化粧品材料や医薬品として注目されている。また,シアノバクテリアの生態においても重要な役割を果たしていると推測されている。しかしながら,シアノバクテリア硫酸多糖の合成メカニズムや機能については,ほとんどわかっていなかった。

研究グループは,S6803の特定の株において,培養液を静置すると時間経過に伴い菌体が浮上し,液面にアオコとよく似た粘性の細胞凝集塊を形成する現象を発見した。これを解析したところ,細胞外に蓄積した粘性の硫酸多糖に,シアノバクテリアの細胞と,光合成により発生した気泡がトラップされて浮上していた。この仕組みは,自然界におけるシアノバクテリアのアオコ形成メカニズムに関わる可能性が考えられるという。

研究グループは,この種が蓄積する硫酸多糖をシネカンと命名し,その化学組成を明らかにした。また,シネカンの合成と制御に関わる遺伝子群を網羅的に明らかにした。バクテリアにおける硫酸多糖の合成制御系の解明はこの研究が初となるという。さらに,この硫酸多糖合成制御系の遺伝子改変により硫酸多糖の蓄積量が大きく増加し,約19倍にすることにも成功した。

硫酸多糖は化粧品材料や医薬品として注目されている多糖類であり,研究グループは,この研究によりバクテリアを用いた硫酸多糖の生産や組成改変など,応用研究の発展が期待されるとしている。

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