東大ら,FPGAで完全デジタル電波分光計を実現

東京大学と大阪府立大学は,完全デジタル電波分光計(All-Digital Radio Spectrometer; ADRS)を開発した(ニュースリリース)。

「電波分光計」は,電波天文観測において,信号の検出を行なう重要な装置。近年,受信機の性能向上が著しく,受信できる電波信号の帯域が急増しており,これに対応する電波分光計が求められていた。

研究グループは,新しい電圧計測器(Analog-to-Digital Converter; ADC)である遅延線傾斜比較型ADCに着目。ADCは,分光計の前段にあって,電波信号(アナログ信号)を電圧値(デジタル信号)に変換する。電波分光計は,このデジタル信号を演算することで電波を検出している。

通常,ADCはアナログ信号を扱うことから,専用のチップとして開発・市販されている。そのため,従来の電波分光計は市販のADCとデジタル演算チップの2つを組み合わせて開発されてきた。着目した遅延線傾斜比較型ADCはデジタル技術だけで実現できる。このADCについては,デジタル論理回路を編集できるFPGAへソフトウエア的に実装できる事が報告されていた。

研究グループは,この遅延線傾斜比較型ADCを,デジタル演算部分とともに1つのFPGAに実装することで,デジタル技術だけで実現する電波分光計の開発に初めて成功した。従来の電波分光計と比べて,完全デジタル電波分光計は部品点数が少なく,汎用のFPGA評価ボードにも実装できるため,従来の1/10と非常に安価に制作する事ができるという。

一方で,アナログ信号をデジタル回路で取り扱う事によるノイズの混入や,遅延線傾斜比較型ADCの弱点である電圧計測時刻の不定性が,天文観測に悪影響を及ぼす可能性があるため,これらの影響を検証する必要があった。

評価実験で得られた観測データを比較したところ,完全デジタル電波分光計で検出された天体信号は既存装置で得られたものと概ね一致し,基本的には性能に問題が無いことが確認された。これにより,完全デジタル電波分光計が天文観測に利用可能である事が実証された。

現在の完全デジタル電波分光計は価格こそ安いものの,分光計の重要な性能である分光帯域が既存の分光計に比べてまだ狭いため,今後は広帯域化を進めるとともに,外来ノイズへの対策を施すなどの製品としての完成度を高める事が課題だという。研究グループは,将来的には野辺山宇宙電波観測所の45m電波望遠鏡で開発中のマルチビーム受信機など,次世代の電波観測装置への応用が検討されるとしている。

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