産業技術総合研究所(産総研)は,炭化ケイ素(SiC)半導体を用い,耐電圧1.2kVクラスの縦型MOSFETと,CMOSで構成された駆動回路を同一チップに集積したモノリシックパワーICを世界で初めて実現し,そのスイッチング動作を確認した(ニュースリリース)。
SiCモノリシックパワーICは,電力変換機器の小型軽量化や損失低減などに貢献できるが,SiC CMOSの出力大電流化と高電圧からの絶縁の両立という困難な課題があり,これまで実現には至っていなかった。
今回,研究グループは,縦型MOSFETとCMOS駆動回路を同一チップに集積したSiCモノリシックパワーICを開発した。従来,CMOS駆動回路と縦型MOSFETは別々のチップに分かれており,その信号配線は金属ワイヤやプリント基板などを介して行なわれている。縦型MOSFETには高電圧が印加されるため,CMOS駆動回路とは十分な絶縁距離が必要であり,これが電力変換機器の小型軽量化を阻む要因となる。
また,信号配線に存在する寄生インダクタンスにより,スイッチング動作が悪影響を受け,損失が増大する原因となる。開発したモノリシックパワーICは縦型MOSFETとCMOS駆動回路を同一チップに集積化することで信号配線長を最小化できるため,小型軽量化と寄生インダクタンスの低減を可能とした。
縦型MOSFETには,産総研が開発したIE-UMOSFETを採用した。CMOS駆動回路は,IE-UMOSFETと共通のp型層上に形成し,①p型MOSFET出力電流増大および②耐電圧,の2点を両立させることに成功した。
作製したSiCモノリシックパワーICを,ドレイン電圧600V,ドレイン電流10Aでスイッチング動作させた。オン状態からオフ状態へのスイッチング動作(ターンオフ),およびオフ状態からオン状態へのスイッチング動作(ターンオン)の両波形が得られ,SiCモノリシックパワーICによるスイッチング動作を世界で初めて実証した。
研究グループは今後,SiC CMOS駆動回路の出力電流をさらに増大させ,SiCモノリシックパワーICの高速スイッチングを目指す。加えて,センサーやロジック回路等も集積し,高機能化を進めることによって利便性を高め,電力変換機器の適用先拡大に貢献するとしている。