宇宙航空研究開発機構(JAXA)らの研究グループは,「はやぶさ2」の小惑星リュウグウへの接近運用中に取得された中間赤外カメラ(TIR)および光学航法カメラ(ONC)の高解像度画像の解析から,水に浮くほど軽い超高空隙率の岩塊を発見した(ニュースリリース)。
小惑星リュウグウは表面の大部分が岩塊で覆われており,TIRおよび赤外放射計(MARA)の観測では,その岩塊の大多数は地上で見つかっている炭素質隕石よりも熱慣性(熱慣性が低いほど昼間に温まりやすく,夜間に冷えやすい)が低いことが明らかになっている。これは「空隙率が高い」もしくは「密度が低い」ことを意味し,リュウグウ上の岩塊の空隙率は推定で30-50%となっている。
研究では,「はやぶさ2」の高度500m以下で取得されたTIR近接撮像データ(空間解像度45m/pix以下)を網羅的に調査した結果,直径20m以下の2つの小さなクレーターの中心部付近に温度が周囲に比べて非常に高い場所(ホットスポット)を見つけた。
熱解析では,ホットスポットの熱慣性はリュウグウ上の他のどこよりも低かった。クレーターに対してはONCの高解像度画像が得られており,10cm程度の黒い岩塊の集合体であることが分かった。
この黒い岩塊は70%以上の空隙率を持つと推定され,密度にするとおおよそ0.8g/cc以下であり,水に浮く。もう一方のクレーターは,近赤外分光計(NIRS3)の結果,クレーター内側は水酸基に起因する波長2.72μmの吸収が外側に比べて強く,比較的近年に掘り起こされた物質であることが分かった。
リュウグウの形成シナリオとして,太陽系初期にダストが集まってできたフワフワの微惑星が,放射性元素による内部加熱,自己重力による圧縮を経験し,中途半端に圧密・固化した,という説がある。
この説では,母天体の大部分がリュウグウの岩塊と同等の空隙率30-50%となるのに対して,母天体表層付近では,内部に比べて経験温度が低く大した圧縮も経験していないので,より初期の高空隙率状態と物質情報を維持した物質が存在したと想定される。
今回発見した超高空隙率岩塊はまさにこのような起源を持ち,オリジナルの情報を残した始原的な物質である可能性が高いという。更に,砂地のデータは,大多数の普通の岩塊と今回発見した超高空隙率岩塊の混合によって説明できるという。
これは,超高空隙率岩塊の細かな破片が砂地に含まれていることを示唆しており,今後サンプルの中からこれらが見つかれば,リュウグウの起源のみならず,微惑星形成・進化論に対して大きな実証的証拠をもたらすことが期待されるとしている。