東京農工大学と理化学研究所は,均一な温度環境下でも熱電発電をするメタマテリアル熱電変換素子を提案した(ニュースリリース)。
熱を電気に変換する熱電変換素子は,未利用熱の再利用に活用できると期待されている。熱電変換素子は素子内の温度勾配を電気に変換する素子で,熱電発電の原理は熱電素子内の温度勾配が電圧に変換されるゼーベック効果に基づいている。
そのため,熱電変換素子内の温度分布が均一で温度勾配がゼロになるような環境では熱電変換素子は機能しないという課題があり,これが熱電変換素子の普及の障害となっていた。
今回研究グループは,赤外光(熱輻射)を効率良く吸収して発熱する人工材料(メタマテリアル吸収体)を熱電変換デバイスの片面に形成すると,均一な温度環境下でも熱電発電を行なえることを,計算シミュレーションにより明らかにした。
このような周囲環境が放出する熱輻射を利用して均一な温度環境下でも熱電変換が行なえるメタマテリアル熱電変換素子の提案は世界初の成果だという。
これまで,熱電変換素子を温度分布が均一な温度環境に長時間放置すると,熱電素子の温度も均一になって温度勾配が失われるため熱電発電は行なえないとされてきた。
そこで研究グループは赤外光(熱輻射)を吸収して発熱するメタマテリアルをビスマステルル(Bi2Te3)熱電変換素子の片側のみに形成した「メタマテリアル熱電変換素子」を提案した。
Bi2Te3熱電変換素子の一端に形成したメタマテリアルは,周囲の環境から赤外線(熱輻射)エネルギーを吸収して発熱し,その熱はBi2Te3熱電変換素子の片面の温度を上昇させる。すると,Bi2Te3熱電変換素子の一端の温度が上昇し,熱電変換素子内に新たな温度勾配が生じるため,均一な温度環境下でも熱電発電が可能となる。
研究グループは227度(500K)の均一な温度環境下に設置したメタマテリアル熱電変換素子が,最大1.09mW/cm2の出力電圧密度を得ることを数値シミュレーションに明らかにした。
今回発表した成果は数値シミュレーションによる検証であり,研究グループは現在,実験的な検証を行なっている。すでに計算結果と同様の傾向を示すデータが得られており,近い将来,実験結果についても発表できる見込みだという。
この研究成果は,温水中や均一な温度炉内などで発電できる熱電変換素子の実現につながり,将来は熱電変換素子が利用できる機会を増やすとともに,未利用熱を効率良くリサイクルできる熱電変換素子に展開できるとしている。