東大ら,遠方銀河が観測方向で隠れる可能性を指摘

東京大学,大阪大学,四国学院大学は,遠方宇宙の大規模構造の探査に用いられる明るい銀河は,その大規模構造を正しくなぞれていないことを発見し,その原因として銀河間ガスの濃い領域では,このタイプの銀河はガスに隠れて見えなくなっている可能性を指摘した(ニュースリリース)。

宇宙で最大の構造である暗黒物質(ダークマター)は銀河の分布から推定することができる。遠方宇宙では,水素原子のライマンアルファ輝線で明るく見える銀河(ライマンアルファ銀河)が大規模構造の観測指標として利用される。しかし最近,ライマンアルファ銀河とそれ以外の種類の銀河とで,描かれる大規模構造がずれるケースが報告されてきた。

銀河が大規模構造を正しくなぞっているかどうかは,銀河周囲の銀河間ガスの分布から調べることができる。個別の銀河では,ある向きではたまたまガスが薄く,別の向きでは濃かったりする。

しかし,数多くの銀河で平均するとこうしたばらつきはならされるので,銀河が大規模構造を正しくなぞっている場合のガスの分布は銀河から見てどの向きでも同じになる。一方,何らかの偏りがある場合,向きによってガスの分布が異なる可能性が出てくる。

研究では,110億年前の宇宙にいるライマンアルファ銀河周囲のガス分布を三つの方向で求め,向きによってガス分布が異なるか否かを調べた。またライマンアルファ銀河の他に,大規模構造を正しくなぞっているとされている連続光銀河と可視輝線銀河の二つの銀河種周囲のガス分布も調べ,ライマンアルファ銀河の結果と比較した。

その結果は,連続光銀河と可視輝線銀河は銀河間ガスの密度分布に沿っている一方で,ライマンアルファ銀河は主に銀河間ガスの高密度領域の手前側に分布しているという描像を示唆した。

視線方向は観測者が決めたものであり,この偏りは見かけ上のものだと考えられる。ライマンアルファ輝線は中性水素ガスに吸収・散乱されるという特徴があるため,高密度領域やその奥にいる銀河から放射されたライマンアルファ輝線は,手前の銀河間ガスに吸収され観測されにくくなると予想した。

これは,霧(銀河間ガス)によって対向車のヘッドライト(ライマンアルファ銀河)が見えなくなる現象に似ている。その一方で,高密度領域の手前にいる銀河からのライマンアルファ輝線は銀河間ガスの吸収をほとんど受けず我々に届く。その結果,ライマンアルファ銀河は高密度領域に付随していないように見えると考えられるという。

今回の成果は,銀河を用いた遠方宇宙の大規模構造の探査に注意を喚起するとともに,銀河・大規模構造・銀河間ガスの関係についての理解が深まるものだとしている。

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