早稲田大学は,ラマン分光法と多変量解析を組み合わせたアプローチにより,マウスとヒトの大動脈瘤に特異的な,新規マーカースペクトル成分を同定するとともに,大動脈瘤の有無により,弾性線維および膠原線維の構造が異なっていることを解明した(ニュースリリース)。
大動脈瘤は,血管が瘤(こぶ)のように異常に拡張する疾患で,無症状に経過することが多く,瘤が成長して破裂すると死に至る危険な疾患。
しかしながら,大動脈瘤の発症と瘤の成長を根本的に阻止する薬剤や大動脈瘤形成を予測できるバイオマーカーがなく,現状,治療法としては,超音波検査やCT検査などで血管径をモニターし,瘤径が一定基準以上になると手術を行なうしかない。
血管壁を構成する成分として,コラーゲンなどの膠原線維や,エラスチンなどの弾性線維という細胞外マトリクスが知られており,その異常が大動脈瘤形成に関わることが報告されている。従って,細胞外マトリクスの変化を臨床的に観察することができれば,大動脈瘤形成の診断マーカーとなり得ると考えられる。
近年,非侵襲的に生体分子構造情報を取得する方法として,分光学的手法が注目されている。その一つであるラマン分光法は,医学分野への応用が進んでいる。研究では,マウスとヒトの大動脈瘤において,ラマン分光法と多変量解析を組み合わせることで,この疾患に特異的な弾性線維と膠原線維由来のラマンマーカースペクトル成分の同定を試みた。
その結果,ラマン分光スペクトルから,弾性線維と膠原線維の血管壁におけるクラスター分布が,野生型と大動脈瘤マウスとで異なっていることを見出した。さらに,マウスにおける大動脈瘤部位に特異的なマーカースペクトル成分を同定し,ヒト大動脈瘤患者の大動脈切片に対して同様の解析を行なったところ,マウスと同じ結果を得た。
ことから,このスペクトル成分が,マウス大動脈瘤とヒト大動脈瘤にのみ存在する,新たな大動脈瘤の診断マーカーとなり得ることが分かった。
同定された大動脈瘤特異的マーカースペクトル成分は,大動脈瘤の発症や経過の予測に有用だと考えられる。研究グループは,このような,分光学的手法により非侵襲的に病状を観察する方法は,さまざまな疾患への応用が期待されるとしている。