北陸先端科学技術大学院大学(JAIST),金沢大学,伊International School for Advanced Studies(SISSA)は,物質を構成する個々の原子の並びを観察しながら,その結合強度を計測できる顕微メカニクス計測法を開発した(ニュースリリース)。
原子が鎖状に並んだ1次元物質の力学的性質は,同じ組成や構造を持つバルク物質と大きく異なることが理論計算によって予想されていた。しかし,1次元物質の性質はわずかな原子の変位にも敏感に変化するため測定例が少なく,解明が進んでいない。
原子配列構造とその力学的性質の相関を明らかにできれば,1次元物質を活用した新しい原理で動作する電子デバイスやセンサー開発の指針となる。
最近,研究グループは,原子配列を直接観察できる透過型電子顕微鏡(TEM)のホルダーに細長い水晶振動子を組み込んで,原子スケール物質の原子配列とその機械的強度の関係を明らかにする顕微メカニクス計測法を世界で初めて開発した。
この手法では,水晶振動子の共振周波数が,物質との接触で相互作用を感じることによって変化することを利用する。共振周波数の変化量は物質の等価バネ定数に対応するので,その変化量を精密計測すればナノスケール/原子スケールの物質の力学特性を精緻に解析できる。
水晶振動子の振動振幅は27pm(水素原子半径の約半分)で,TEMによる原子像がぼやけることはないという。この手法は,従来の手法(小さなSi製テコを利用してその変位から力を計測する手法,TEM-AFM法)では困難だった結合強度の高精度測定を実現している。
研究では,このTEMホルダー内部で白金原子鎖を150個作製してその特性を詳細に調べ,白金原子鎖における原子結合強度が25N/mであることを突きとめた。この値は,白金のバルク結晶の原子結合強度20N/mよりも25%高い。
また,原子間結合の長さ(0.25nm)は最大0.06nmも延びることが分かった。これは原子結合の最大弾性ひずみが24%になることを示しており,バルク結晶の値(5%以下)と比較して著しく高い。
さらに,第一原理計算の結果を合わせて考察することで,このような特異な原子結合の性質は,白金原子鎖がエネルギー的に最安定な構造ではなく,形成に必要な張力が極小となる構造を取ることによって生まれることがわかったという。
これは,1次元物質がもつ特異な原子結合に関わる性質を明らかにし,理論計算と組み合わせることによって形成メカニズムを突きとめた点で大きな成果であり,原子スケールで制御された機能性物質の創製に指針を与えるものだとしている。