京大ら,Thoulessポンプにおける乱れの効果を検証

京都大学,東京工業大学,筑波大学,東京大学は,Thoulessポンプと呼ばれるトポロジカル量子現象における「乱れ」の効果について明らかにした(ニュースリリース)。

トポロジカル量子現象は,乱れのような摂動に対して堅牢であることが知られているが,乱れが非常に大きい場合にどのようなことが起きるかは不明だった。

これまでに研究グループでは,光格子中の極低温イッテルビウム原子を用いて,Thoulessの量子ポンプを世界に先駆けて実現しており,今回,この系に「準周期的な乱れ」を導入しその乱れの強さを系統的に変えることで,この系の堅牢さが乱れに対してどのような影響を受けるかを検証した。

研究ではまず,先行研究と同様に波長532nmのレーザーが作る2種類の光格子(格子間隔266nmの動かない光格子および格子間隔532nmのスライドする光格子)を組み合わせることで,Thoulessポンプの理論モデルの一つ,Rice-Meleモデルに対応する系を実現する一次元の光超格子系を構築した。

この光超格子が周期的に時間変化すると,この光超格子に導入された極低温のイッテルビウム原子集団が1周期毎に決まった量だけ移動(ポンプ)する。この移動量が「トポロジカル不変量」と直接関係しており,研究グループは,この移動量がパラメータの変化に対して堅牢であることを確認している。

今回,この光超格子に対して,違う空間周期をもつ光格子ポテンシャル(準周期乱れ光格子)を重ねることで,この系に「準周期的な乱れ」を導入した。この準周期的な乱れは,準周期乱れ光格子に使用するレーザーのパワーを調整することで,その強さを自在に制御することができ,まずThoulessポンプがどの程度の乱れまで堅牢であるかを調べた。

通常,Thoulessポンプのような1次元の系では,小さな乱れでも「Anderson 局在」という輸送を妨げる現象が生じるが,研究グループは,Anderson局在が起こるとされる乱れの強さよりもずっと大きな乱れまでこの系が安定であることを確認した。

さらにある値よりも乱れが大きくなると,NiuとThoulessが指摘していたようにギャップが閉じてからポンプがゼロになる(輸送しなくなる)ことを実験的に確認した。

またこの結果をもとに,「乱れがないときにはポンプがゼロで,ある乱れの範囲では有限のポンプが生じる」という「乱れ誘起」のポンプを観測した。乱れが存在することで初めて生じるトポロジカル量子現象としてはトポロジカルAnderson絶縁体があるが,今回その類似物をThoulessポンプの系で構築する道筋を示したものだとしている。

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