北陸先端科学技術大学院大学(JAIST),岐阜大学,大阪大学は,筋肉のような収縮性のファイバー(人工筋肉)を,光照射した場所に自在に形成させることに成功した(ニュースリリース)。
生物のエンジン「筋肉」は,モータータンパク質と呼ばれる生体分子モーターから構築されており,数百μmから数十mまでスケーラビリティにとんだアクチュエータとなっている。
生物のエネルギー源(アデノシン三リン酸 (ATP))を用いて高い効率で力学的仕事を行なうという,従来のアクチュエータと比べ質的に異なる特性を持ち,これまでには無い産業分野での応用が期待されている。
しかし,筋肉自体または筋肉細胞をアクチュエータとして利用する試みは基礎研究レベルでは報告されているが,筋肉細胞の安定性・保存性の問題やアクチュエータとして組み込む技術が未発達のため,実用化には至っていない。また,筋肉組織の構成分子はほぼ同定されているが,それら構成分子から筋肉を再構築する技術は知られていなかった。
研究では,生体内の収縮性ファイバーの形成過程に着想を得て,人工筋肉を自在に形成させる分子システムを開発した。モータータンパク質の一種であるキネシンを遺伝子工学的に改変し,フィラメント状にすることにより,レールタンパク質である微小管と混ぜるだけで,モータータンパク質の動的な機能により自己組織的に人工筋肉を形成させることができた。
さらに,光照射によりモーター分子のフィラメント化を開始させ,照射した部位のみに人工筋肉を形成させることを可能とした。この人工筋肉を大きさ数ミリメートルの機械構造内に形成させることにより微小機械を駆動させることに成功した。
筋肉のような柔軟で低エネルギー・低環境負荷なアクチュエータの産業応用は期待されているが,実用化には至っていない。研究では,生体の運動素子であるモータータンパク質分子を数mm以上の組織に構築することにより,生物の筋肉に似た機能・性質を持つ人工筋肉の製造を可能とした。
特に光照射により人工筋肉の形成を開始可能なことから,たとえば光造形型の3Dプリンターに組み込めば人工筋肉の光造形などが可能になることが将来期待でき,生体材料で駆動するマイクロロボットやソフトロボットの3Dプリント技術の基盤技術となる可能性が高いという。
研究で開発された人工筋肉は,現時点では形成・収縮が同時に起こり,かつ収縮は一回のみで用途も限定される。今後,制御用の分子システムを開発することにより,可逆または振動可能な人工筋肉を開発しマイクロロボットやソフトロボットへの実装を目指すとしている。