東京大学とシェルハメディカルは,低コストかつ簡便で高性能なAR(Augmented Reality;拡張現実)手術ナビゲーションの研究成果として「Ortho Raptorナビゲーションシステム」を開発し,人工膝関節置換術(Total Knee Arthroplasty;TKA)用AR手術ナビゲーションとしては国内初となる医療機器薬事認証を取得した(ニュースリリース)。
近年,コンピュータ支援手術(Computer Assisted Surgery;CAS)の開発,導入がされている。整形外科領域においても赤外線を用いた光学式手術ナビゲーションが国内に多数導入されているが,これらシステムの導入には数千万円から数億円のコストが必要となる。
またこれらのシステムでは術前のセッティングや術中に患者への術具固定などの作業が発生し,手術時間の延長や操作の煩雑性が課題となっている。また,患者の骨に術具を固定することによって骨折を生じた事例も報告されているという。
人工膝関節置換術(TKA)において正確な骨切りによる良好な下肢アライメントの獲得は,人工膝関節の寿命や可動域の制限などの術後成績に直結する最重要課題の一つ。これまで骨切りをアシストする様々な手術ナビゲーションシステムが導入されてきたが,人工膝関節置換術全体の数パーセント程度しかCASが普及していない。
これらの課題を解決すべく研究グループは,低コストかつ簡便で高性能なAR手術ナビゲーションの研究成果として「Ortho Raptor」を開発し,TKA用AR手術ナビゲーションとしては国内初となる医療機器薬事認証を2021年2月22日に取得した。
このシステムは市販されているモバイル携帯端末を用いることにより低コストの製品化を実現し,AR機能で直観性を高めることで術者の使い易さを追求した。また,可視光領域の反射率1%以下という低反射特殊技術を用いて手術用のARマーカーを開発し,術野を強力に照らす無影灯下でも高い認識性能を持つARシステムを実現した。
これらの技術により計測誤差0.5mm,0.8°という計測を実現。さらに,患者へ直接固定せず手術器械に取り付ける方式のため患者の骨折の危険性を回避。これらにより,このシステムはTKAに必要な全ての軸をサポートし,低コストと簡便さを兼ね揃えた。
原理的には人工股関節置換術,骨切り術への展開が可能。研究グループは,術前三次元計画情報および術中運動計測の連携も含めた複合的なシステムの構築を計画するほか,場所や低医療費マーケットなどを選ばない海外での普及も目指すとしている。