理化学研究所(理研),東京大学,広島大学,宇宙航空研究開発機構,情報通信研究機構,米航空宇宙局(NASA)らは,高速で自転する中性子星「かにパルサー」で発生する「巨大電波パルス(GRP)」に同期して増光するX線を検出した(ニュースリリース)。
地球から約6500光年にある「かに星雲」の中心には,パルスを発生する中性子星「かにパルサー」が存在している。
しかし,かにパルサーの放射のメカニズムはよく分かっておらず,周期的な電波パルスが散発的に通常より10~1000倍ほども明るくなる「巨大電波パルス(GRP)」も謎となっている。これまで,GRPのようなパルスの増光現象は電波でしか発生しないと考えられてきたが,2003年,高速度カメラを使うことでGRPに同期して可視光のパルスが数%だけ明るくなる現象が発見された。
その発見以前はパルサーにおける電波とそれ以外の波長(可視光,X線,ガンマ線)の放射メカニズムは異なると考えられており,よりエネルギーの大きいX線やガンマ線でも同様の増光が見つかるか,大きな関心が寄せられていた。
GRPに同期したX線やガンマ線を探索する上で,これまでの望遠鏡では十分な数のX線光子やガンマ線光子を集められなかったが,2017年に国際宇宙ステーションに設置されたNASAの新世代X線望遠鏡NICER(ナイサー)は,中性子星の観測に最適化されたエネルギー領域でかつてないX線の集光能力や高い時間分解能など,GRPの探索に有利な性能を持ち合わせている。
研究グループは,2017年から2年間,X線望遠鏡ナイサーと日本の二つの電波望遠鏡を連携させ,合計15回に上るX線と電波の国際的な同時観測を実施し,これまでで最大となる量のX線と電波の同時・多波長データを蓄積した。解析の結果,GRPに同期してX線パルスが4%ほど増光していることが明らかになった。
X線での増光は4%と小さくても,X線は電波よりもはるかに大きなエネルギーを解放していることから,GRPの発生時に放出されるエネルギー量はこれまで考えられていたよりも数百倍以上大きいことが分かった。
現在,GRPの放射メカニズムとして,パルサー磁気圏における高速プラズマの激しい噴出などを起源とする理論モデルがあるが,今後はX線の増光を説明できるようにする必要がある。今回の発見は,プラズマ噴出・電波放射に伴う,パルサーでの高エネルギー粒子生成などについても新たな知見を与えるものだとしている。