筑波大学と北陸先端科学技術大学院大学は,ダイヤモンドの表面近傍に欠陥である窒素−空孔(NV)センターを導入してダイヤモンド結晶の対称性を操作し,第二高調波,第三高調波発生など,広帯域の波長変換を行なうことに成功した(ニュースリリース)。
高純度ダイヤモンド単結晶にNVセンターを導入することにより,欠陥準位を介したマイクロ波による発光制御が可能になり,この原理を用いた量子センシングの研究が活発になっている。
研究グループは,NVセンターを導入した高純度ダイヤモンド単結晶に波長1350nmの赤外パルスレーザー光を励起光として照射すると,第二高調波が1/2波長の約675nmに,また第三高調波が1/3波長の約450nmに発生することを明らかにした。この時,ダイヤモンド単結晶は紫色(赤色と青色の混成色)に発光した。
従来のダイヤモンド中NVセンターの研究では,連続発振グリーンレーザー(波長532nm)を照射した際に,NVセンターの欠陥準位を介した発光が,約660nmを中心とした波長領域に現れることが分かっている。このような既知の発光である可能性を取り除き,今回観測された約675nmの発光が第二高調波発生であることを確かめるため,励起レーザーの波長を掃引して波長変換特性を調べた。
その結果,励起レーザーの波長の変化に応じて,第二高調波だけでなく第三高調波の発光波長が逐次変化することが確かめられた。これにより,今回観測された発光は,欠陥により結晶の対称性が崩れることによる第二高調波発生であることが明らかになった。さらに,その変換効率は短波長ほど大きくなり,最高で5×10-5に達することが分かった。今回,第二高調波がダイヤモンドの表面近傍約35nmの非常に薄い領域から発生していることからも,極めて高い変換効率であることが分かるという。
また,励起レーザーの偏光角を回転させることで,第二高調波と第三高調波の発光強度の変化を調べたところ,それらの偏光角依存性はNVセンターを導入する前の高純度ダイヤモンドのパターンとは明らかに異なることが分かった。特に,NVセンターを導入したダイヤモンドでは,第二高調波と第三高調波のパターンが若干の回転を除けば非常に似ていることが分かり,第三高調波は第二高調波が駆動力になっていることも示唆された。
研究グループは今後,2次の非線形光学効果である第二高調波発生や電気−光学効果を用いた量子センシング技術を深化させ,最終的にダイヤモンドを用いたナノメートルかつ超高速時間領域(時空間極限領域)での量子センシングの研究を進めていくといている。