分子研ら,ジグザグ型カーボンナノベルトを合成

分子科学研究所と名古屋大学は,ジグザグ型カーボンナノベルトの合成,単離,構造決定に成功した(ニュースリリース)。

カーボンナノチューブ(CNT)は近年のナノカーボン科学の中心となる重要な物質だが,製法・精製法の制限から現在は様々な構造の混合物として用いられている。

真の性能を発揮するためには構造的に純粋なCNTが求められており,その一歩としてカーボンナノベルト(CNTをある長さで輪切りにした構造をもつ有機分子)の合成が古くから挑戦されてきた。近年,アームチェア型(2017年),キラル型(2019年)の合成が相次いで報告されたが,最後の1つであるジグザグ型は最も難しく成功例はなかった。

ジグザグ型カーボンナノナノベルトは1954年に構造が提唱されている最も古いカーボンナノベルト。多くの有機合成化学者が合成に挑んだが,これまでに合成例はなかった。ジグザグ型カーボンナノベルトは,ベルト構造に由来する大きなひずみがあることに加え,酸素などの分子との反応性が非常に高いことが予想されていた。

そこで研究では,従来のジグザグ型カーボンナノベルトの適切な位置にベンゼン環を縮環することで,高い安定性が得られると考えた。合成に先立ってスーパーコンピュータを用いた様々な解析を行ない,今回設計した分子が高い安定性をもつことが示唆された。

合成はピレン誘導体から9段階かけて行ない,総収率0.8%で目的とするジグザグ型カーボンナノベルトを得た。X線結晶構造解析によって,得られたジグザグ型カーボンナノベルトがジグザグ型CNTに相当する筒状分子であることを確認し,高い安定性をもつことを各種光物性測定によって実験的に明らかにした。

今回,ジグザグ型カーボンナノベルトの合成,単離,構造決定に成功した。これによって3種類のCNT構造全てを有機合成的に構築する技術が確立した。これは構造的に純粋なCNTの自在合成に向けた大きな一歩となるもの。

研究グループは,今後はさらなる合成効率の改良や,他の太さや長さをもつカーボンナノベルトの合成法の開発,カーボンナノベルトを用いた構造選択的なCNT合成が期待されるとしている。

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