東北大学と産業技術総合研究所は,2次元層状物質の一つとして知られるCr2Ge2Te6薄膜が,原子配列の長距離秩序とランダム性を同時に発現する特殊な結晶状態を示すことを突き止めた(ニュースリリース)。
最近,所望の2次元層状物質の組成を有するアモルファス状態を物理蒸着法により作製し,それに熱処理を施して結晶化させることで規則的に配列した2次元層状物質を作製する手法が注目を集めている。
3次元的でランダムなアモルファス状態から2次元的な原子配列を持つ層状物質への結晶化は,結合の次元を大きく変化させるにも関わらず高速で進行することが知られている。但し,これまでの研究の殆どは,作製された2次元層状物質の結晶状態に焦点を当てたものであり,出発点であるアモルファス状態に関する知見や,その結合の次元が変化するメカニズムは明らかになっていなかった。
研究グループは,強磁性半導体や次世代の相変化メモリ材料としても注目されている2次元層状物質Cr2Ge2Te6について,そのアモルファス状態から結晶状態への変化に伴う化学結合形態の変化を詳細に調査したところ,アモルファス状態のCr2Ge2Te6薄膜を290℃以上に加熱することで,原子層に平行な面に由来したブラッグ反射が得られ,原子層は長距離的な秩序を有して配列している事が分かった。
一方,330℃以上に加熱する事により規則的かつ長距離秩序を持つ原子配列をとるのに対して,290℃までの加熱では寧ろアモルファス状態と似通った原子配列,つまりランダムな原子配列をとることが明らかになった。
この結晶状態について,第一原理計算を基に調査したところ,Cr,Ge,Te原子が,理想的な結晶状態の原子配列から原子層面内で0.15Åだけランダムにずれた構造とほぼ一致することを突き止めた。即ち,アモルファス状態から結晶状態に変化した直後のCr2Ge2Te6は,「疑似層状構造」を示し,原子配列の長距離秩序とランダム性を同時に発現する新しい結晶状態であることが分かった。
この結果は,アモルファス状態と結晶状態それぞれの特徴を部分的に併せ持つ「疑似層状構造」の存在が3次元から2次元へのスムーズな化学結合状態変化を促し,高品質な2次元層状結晶への変化を可能にしていることを示しており,他の2次元層状物質における結晶作製プロセスの理解にも大いに役立つとしている。
研究グループは今後は得られた知見を基に,高品質な2次元層状物質の大面積作製およびその電子デバイス作製に取り組むとしている。