物質・材料研究機構(NIMS),大阪大学,北海道大学は,磁場によって容易に破壊される超伝導が,原子レベルの厚さでは強磁場中でも破壊されない現象を見出し,そのメカニズムを明らかにした(ニュースリリース)。
超伝導は病院でのMRI(核磁気共鳴画像法)や超高感度磁気センサーなどさまざまな分野で応用されている。
その中でも特に近年注目を集めているのが,トポロジカル超伝導体と呼ばれる特殊な超伝導体。トポロジカル超伝導体は,量子情報を長時間保持できるため,量子コンピューターの素子として利用すれば,より複雑な演算が可能になるといわれており,その実現には,超伝導体と磁性体を組み合わせたハイブリッド構造をとることが有望視されている。
一方で,超伝導体と磁性体を接近させると強い「磁場」が発生するが,超伝導は磁場(磁気)によって容易に壊れてしまうという性質があるため,トポロジカル超伝導体実現のために,磁場に対して頑強な性質をもつ超伝導体の開発が望まれている。
今回,研究グループは,代表的な超伝導体であるインジウムを原子レベルの厚さまで削った超薄膜結晶を用いることで,強い磁場でも超伝導が破壊されない新たなメカニズムを発見した。
通常は磁場をかけるとスピンとの相互作用によって電子のエネルギーが変化するため超伝導が壊れる。しかし原子層の2次元結晶では,スピンの向きが電子の運動方向と直結し,スピンに回転の「ひねり」が与えられる。
そのため,スピンの向きが頻繁に変化し,磁場によるエネルギー変化がキャンセルされて超伝導が壊れない。これにより,超伝導が壊れる臨界磁場は従来の理論値の3倍程度(16~20T)にまで増強されることがわかった。
インジウム自体はごくありふれた超伝導体であり,このメカニズムは特殊な結晶構造や電子間の強い相互作用などを必要としないため,汎用性の高い一般的な原理といえる。磁場に強い超伝導材料開発の道筋を示すとともに,磁性体との組み合わせで実現が期待されるトポロジカル超伝導体の開発に大きく貢献することが期待される。
研究グループは今後,この成果を応用して,より磁場に強い超伝導超薄膜の開発を行なう。さらに,超伝導-磁性体ハイブリッド型のデバイスを作製し,次世代量子コンピューターの実現に欠かせないとされるトポロジカル超伝導体の開発へとつなげていくとしている。