東京農工大学は,粒子の形を自在にコントロールする技術を開発した(ニュースリリース)。
多孔質材料にはゲル・シート・粒子などさまざまな形態があるが,直径数µmの多孔質の「粒子」は肺の深層部(肺胞)に薬物を運ぶための担体(薬物キャリア)として注目されている。
研究グループでは,特定の構造をもつ高分子(親水性のポリエチレングリコールと疎水性のポリ乳酸が結合した構造を有し,水にも有機溶媒にも溶解する高分子)の作用によって自己乳化が生じることを発見し,この現象を利用することによって多孔質粒子を「一回の機械乳化のみで」作製できる低コスト・低エネルギーの新技術をすでに報告している。
この多孔質粒子は世界最高レベルに低い(0.05g/cm3)タップ密度を有している。その軽さから呼吸の流れに乗りやすく,薬物を保持したまま肺胞まで届くことができる。しかし,粒子のさらなる高性能化のためには,粒子の多孔質構造の制御が重要な課題であり,これまで普遍的な構造制御技術は確立されていなかった。
研究グループは今回,粒子を構成する高分子の組成や濃度に依存せず,粒子作製時に用いる有機溶媒の組成のみを調節するだけでさまざまな形態の粒子を得ることに初めて成功した。
今回,「揮発性が異なる複数の有機溶媒」を混合して用いた(一般には,粒子を作製する際には,一種類の有機溶媒のみが用いられる)。蒸気圧(揮発しやすさの指標)が異なるトルエンとジクロロメタンを混合して用いると,その混合有機溶媒からはジクロロメタンの方が速く蒸発し,トルエン比率は増加する。トルエン比率が増加した混合有機溶媒中では,自己乳化エマルションの安定性が高まるため,最終的に得られる粒子内部に空孔形成が促進されまる。
温度などが異なる条件においては,「異なる有機溶媒の蒸発速度」や「混合有機溶媒中におけるトルエン残存率」が変化する。この二つの因子が粒子形成に及ぼす影響を制御することによって, 「内部に空孔がない粒子」「内部の一部に空孔がある粒子」「内部の全体に空孔がある粒子」という三つの形態の粒子を自在に作製することに成功し,その形成原理を解明した 。
この原理の確立により,従来は調製が困難であった経肺投与DDS(ドラッグデリバリーシステム,薬物送達システム)に適した多孔質の薬物キャリアが簡便・精密・自在に得られる。また,バイオ・医療材料以外にも,粒子が活躍する電子材料,光学・分子デバイスへの波及効果も高いと考えられるとしている