大阪大学は,高分子太陽電池開発において,機械学習による材料探索の有効性を世界で初めて実験で実証した(ニュースリリース)。
電気を流す高分子を使った高分子太陽電池は,プラスチックフィルムのように軽量で曲げ性や耐衝撃に優れ,インクジェットプリンターのような常圧下での溶液プロセスで作製できる。そのため,低価格化が期待でき,色や形状の自由度も高いため,多彩で多様な用途も期待されている。
高分子太陽電池は,正電荷を運ぶp型高分子半導体と負電荷を運ぶn型分子半導体の混合薄膜で形成されている。それぞれの有機半導体は,電子供与基(D)と電子受容基(A)を連結した化学構造を有している。
太陽電池の変換効率は,材料の化学構造だけでなく,素子作製における多くの複雑な因子で左右される。したがって,時間のかかる量子化学計算や合成・実験で候補材料を個々に検証する必要があり,効率的な材料探索のボトルネックとなっていた。
近年,フラーレンを電子アクセプターとする太陽電池に代わり,高性能な非フラーレン電子アクセプター(NFA)が注目を集めている。研究グループは,既報の論文から約560個の高分子・NFA太陽電池の実験データを手動で収集し,そのデータをさまざまな機械学習アルゴリズムに学習させた。
その結果,研究グループが開発したアルゴリズムであるランダムフォレストが最も高い予測精度を示した。さらに,テストデータに対する予測精度(相関係数)は,以前の高分子・フラーレン太陽電池で得られた0.62から,0.85へ大きく向上させることができた。
続いて,収集した高分子化学構造をD・A基へ断片化し,それを網羅的に再構築することで約20万種類の高分子を仮想的に生成した。このうち,実際に実験で報告されているものは1000種類程度なので,99.5%は手付かずの高分子となる。構築した機械学習モデルを用いることで,この20万種類 をわずか20分で第1位から第20万位までのランキングに並べることができたという。
ランキング上位のうち,報告されていない新規高分子4種類を合成した。その結果,そのうち1つは予測した変換効率11.1%に対して実験値10.1%を得た。さらに,この4種類の高分子は同一の骨格でアルキル鎖が異なるものだが,その変換効率の実験値の順番をあてることができた。
最適なアルキル鎖の形や長さは高分子骨格によって大きく異なるので,今回実証した高精度な機械学習モデルは,今後の高分子太陽電池開発において強力な手段となりえるとしている。