東京大学,筑波大学,産業技術総合研究所は,特異な分子軌道形態を有するモノマーユニットを組み込むことによって,半導体ポリマー鎖間で良好な電荷輸送性を示すことを実証した(ニュースリリース)。
有機半導体は低分子半導体と高分子半導体(半導体ポリマー)の二つに大別される。低分子半導体の電荷輸送は,π共役系分子同士の軌道の重なりの度合が大きく影響する。そのため,分子集合体構造において,いかに軌道の重なりを大きくするかを念頭に分子設計が行なわれている。すなわち,原子レベルの精度で分子配列を制御することが要求される。
一方,半導体ポリマーは,π共役系分子が共有結合で繋がった巨大な分子構造を有するため,ポリマー鎖内では共有結合を介してポリマー鎖内で電荷輸送が可能。しかしながら,その巨大な分子同士は無秩序に絡み合うため,ポリマー鎖同士の軌道の重なりが大きくなるような配列をとらせることは容易ではない。そのため,ポリマー鎖間の電荷輸送性を高めるため,配向させて鎖間の距離を縮めることに主眼が置かれていた。
研究グループは,配列制御が困難な半導体ポリマーにおいても電荷輸送の向上が可能な軌道の重なりを実現すべく,長軸方向に同位相の軌道が広がるπ共役系分子であるChDT骨格を構成ユニットとした半導体ポリマーPChDTBTを新たに開発した。
大型放射光施設SPring-8における集合体構造解析によって,分岐型アルキル側鎖の分岐位置がポリマー主鎖から遠ざかることによって,π共役平面の配向様式が基板に対して平行なface-on配向から垂直なedge-on配向へと変化することが分かった。
基板に平行な方向の電荷輸送について,ポリマー鎖間の電荷輸送が有効に働くedge-on配向を誘起する側鎖を有するPChDTBT誘導体は,ポリマー鎖間の電荷輸送が有効に働かないface-on配向のものと比べて,最大で3桁高い移動度であり,既存の高結晶性半導体ポリマーに匹敵する移動度を示したという。
今回の結果により,これまで切り離されてきたポリマー鎖内とポリマー鎖間の電荷輸送に関わる分子設計を複合的に半導体ポリマー材料開発に反映させることが可能となった。今後,それぞれの電荷輸送性を同時に高め,低分子半導体に匹敵する高性能半導体ポリマーの開発につながることが期待されるとしている。