浜松ホトニクスは,新たな放熱設計技術により開発した量子カスケードレーザー(QCL)と独自の合波技術により,波長8.6μm,平均出力2Wの高出力QCLモジュールを開発した(ニュースリリース)。
現在,通信機器の高速,大容量化に伴い,高周波デバイス用基板において信号が劣化しづらいPTFEなどの樹脂材料の利用が進んでいる。また,輸送機器の軽量化に向け車体や部品の樹脂化が進められており,PTFEをはじめとする樹脂材料を精密に加工できるレーザー加工技術の実用化への期待が高まっている。
一方,樹脂材料の加工に適した中赤外光を出力する加工用レーザーは波長10.6μmの炭酸ガスレーザーに限られており,吸収しやすい波長が異なる樹脂材料の微細加工に対応するため,従来とは異なる波長の中赤外光を出力する加工用レーザーが求められている。
同社は,ガス分析などの環境計測分野に向け,波長4μmから10μmの中赤外光を数十mWで出力するQCLを販売しているが,加工用途ではより高い出力が必要とる。QCLは,発光層を積層した構造となっており,その段数を増やすことで出力を高めることができるが,一方で駆動電圧が高くなり発熱量が増加する。このため,出力効率が低下し素子寿命も短くなるという問題があった。
同社は今回,熱伝導率が高い金の厚膜をQCLの表面に形成し高精度に研磨するとともに,独自の組み立て技術によりヒートシンクと密着させることでQCLの放熱性を高めた。これにより,発光層の段数を従来の3倍まで増加させながらも熱の影響を抑え,QCLの出力を1W以上とした。
また,独自の光学設計技術による光学部品を用いるとともに独自の合波技術により,二つのQCLが出力する偏光の角度が異なる中赤外光を効率よく重ね合わせることで,波長8.6μm,平均出力2Wの高出力QCLモジュールの開発に成功した。
この開発品は,二つのQCLを載せ替えることで,加工対象の樹脂材料に応じて波長6.1μm,4.6μmの中赤外光も出力することができる。さらに,同時に開発したファイバアウトユニットを併用することで,QCLモジュールからの中赤外光を加工部に照射しやすくなり,使い勝手を高めることができるという。
これにより,高周波デバイス用基板や輸送機器向けの材料として利用が進められており難加工材料として知られる,PTFEをはじめとする樹脂材料の微細加工が可能になるという。また,照射する生体分子が吸収しやすい特定の波長の中赤外光を利用することで照射部周辺の熱損傷を抑えることができるため,医療やヘルスケアなどの分野への応用も期待されるとしている。