北海道大学らの研究グループは,一般に熱を伝えやすいと考えられている界面のない単結晶に,数周期の超格子と呼ばれる構造を導入することで,熱を伝えにくいはずの多結晶よりも熱を伝えなくなることを発見した(ニュースリリース)。
熱伝導率が低い低熱伝導セラミックは,耐熱材料などの熱バリアコーティング剤として重要。
電気絶縁体であるセラミックの熱伝導は原子の振動の伝播で起こるため,結晶の界面で大きく減衰する。一般に,結晶の方向が揃っていない多結晶には多くの界面が含まれているため,多結晶は単結晶よりも低い熱伝導率を示す。
セラミックをさらに低熱伝導率化するためには,複数のセラミックスを数nmの周期で積層する「超格子」構造が有用だが,超精密な薄膜作製手法によって数nmずつ交互に積層する必要があり,大面積化に不向きで,時間がかかるため,実用的ではなかった。
研究グループは,結晶固有の「自然超格子」と呼ばれる数nm周期で二種類の成分が積み重なった構造を有するセラミック,InGaO3(ZnO)m(mは自然数)に着目。反応性固相エピタキシャル成長法と呼ばれる手法によって様々なm値のInGaO3(ZnO)m単結晶薄膜を作製し,超格子に直交方向,平行方向の熱伝導率の比較をするとともに,結晶の方向が揃っていない多結晶の熱伝導率との比較も行なった。
初めに,作製したInGaO3(ZnO)m単結晶薄膜の熱伝導率(室温)を,厚さ1nmあたりの境界の数に対してプロットした。超格子に直交方向の熱伝導率は,厚さ1nmあたり0.5から0.6枚の境界があるときに熱伝導率は極小(約1Wm−1K−1)になることが分かる。
超格子に平行方向と多結晶はほぼ同様の振る舞いだが,極小値は約3Wm−1K−1。単結晶であるにも関わらず,超格子に直交方向の熱伝導率は多結晶の1/3しかなく,低熱伝導率であることがわかった。
また,超格子に直交方向では,InO2層とGaO(ZnO)m層の境界で熱伝導が減衰するため,単結晶であるにも関わらず低い熱伝導率を示す。超格子に平行方向では,境界による熱伝導の減衰はなく,高い熱伝導率を示す。多結晶の熱伝導率は,超格子に平行方向の熱伝導率とほぼ同じだという。
この発見は,単結晶内の異なる成分間の層状の境界が熱伝導を著しく低減することを示唆しており,耐熱材料などの熱バリアコーティング剤としての低熱伝導材料を設計するための大きな指針を与えるものだとしている。