慶應義塾大学は,銀原子数を精密に峻別したナノクラスターを蒸着した固体表面からの光電子放出過程を用いて,プラズモン応答の最小単位が9原子であることを明らかにした(ニュースリリース)。
光を金や銀などの貴金属粒子に照射すると局在表面プラズモン共鳴(LSPR)に基づく光学過程が生起され,太陽電池などの光電変換デバイスやプラズモニック光回路などのフォトニックナノデバイスを高効率化するといった観点から応用が期待されている。
LSPRの最小単位を明らかにすることは,プラズモン応答の根本的な理解を与え,光電変換において光吸収に引き続く電荷分離過程を精密制御する上で極めて重要であることから,LSPRの起源の特定は強く望まれていた。
研究グループは,LSPRの物理特性の評価を銀ナノクラスターの精密合成とともに,2光子光電子分光法(2PPE)を用いて行なった。直径1nmに満たない銀ナノクラスター21量体(Ag21)を0.2MLという量だけ蒸着して2PPEを観測したところ,ごくわずかな銀ナノクラスターの蒸着にもかかわらず,光電子の信号強度が10-100倍ほども増強された。
同様の現象は,直径2-10nm程度の様々な大きさの銀ナノ粒子の研究において既に報告されているという。したがって,銀原子を21個に減らしても,プラズモン励起によって価電子の集団振動が誘起され,大量の励起電子(とその緩和に伴うホット電子)が生成されると理解できるという。
さらに,構成原子数を1個ずつ丹念に変化させた銀ナノクラスター(3-55量体)を用いて同様の観測を行ない,プラズモン励起に必要な最小の大きさを調べた。
測定では,プラズモン励起による光電子増強が照射する入の偏光方向(光電場の振動方向)に極めて敏感であることを利用してプラズモン励起の大きさを調べたところ,9量体以上の銀ナノクラスターについて顕著なプラズモン励起が起こることがわかった。これにより,銀ナノクラスター内で価電子がプラズモンによる集団振動するためには,9原子あればよいことを世界で初めて見出した。
また,プラズモンによる光吸収をした銀ナノクラスターで生成する励起電子は,ナノクラスター内部で極めて緩和しやすいことを明らかにした。これらの結果は,太陽電池における光電変換過程の増強や,高速通信に期待されるプラズモニック光回路などのナノデバイスの開発において,有効な基盤技術になることが期待されるとしている。