豊橋技術科学大学は,半導体マイクロマシン技術を用いて作製したチップ上で,室温環境下において呼気に含まれる揮発性ガスをppm程度の濃度で検出可能な検査チップを開発した(ニュースリリース)。
様々な疾患の存在や進行度を知るための指標として,呼気診断による非侵襲計測は患者の負担が少なく,有望な疾患の検査方法として注目されている。
現在までに開発されている半導体ガスセンサーは,ガスに感応して電気抵抗値や静電容量値が変化する膜をセンサー上に形成し,それを数百度に加熱することで計測を行なう。そのため,加熱部から周囲を分離するための構造を別途形成する必要があり,製作工程の煩雑化や単位面積当たりの集積度の低下,消費電力の増加が課題だった。
そこで,研究グループは,ガス分子の吸収により膨張・収縮する特性を持ったポリマー材料をフレキシブルに変形するナノ薄膜上に成膜し,標的ガスの吸収量を膜の変形量として計測するセンサーを開発した。このセンサーは,光が狭い隙間で強め合う干渉特性を利用して,ガスの吸着を色の変化としてとらえることができ,加熱機構を搭載せずにガスの計測が可能となる。
また,このセンサーは変形するナノ薄膜と半導体基板の間に作られる微小な空間を数百nmサイズまで狭く形成することで,面積を拡張せずに感度を向上させることができる。
しかし,微小な空間を形成しつつ,その上にナノ薄膜を一体化することは難しく,新たな製作工程を開発する必要があった。そこで,ナノ薄膜が熱と圧力の印加により強固に接合する特性に着目し,異なる2つの基板を接合後,片側の基板を剥離する製作工程により,400nm程度の微小な空間を有するセンサー構造を実現した。
これにより,数μmの隙間で形成されていた従来センサー構造に対し,センサー応答が11倍程度向上することを実証し,ガスの吸着によりナノ薄膜が変形していく様子を色の変化として捉えることが可能となった。
さらに,開発したチップが,エタノールガスを数ppm程度の濃度で検出できることを実証した。この検出下限濃度は,室温環境下で測定可能である最も高感度な半導体センサーと同等だという。同検出方式のセンサーと比較しても,1素子あたりの面積は150分の1に小型化しつつ,検出性能は40倍向上した。
研究グループは,今後疾患に関連する様々な揮発性ガスに対して,開発した半導体センサー上で検出可能であることを実証していく。また,携帯可能な小型センサーシステムを構築し,従来よりも消費電力の低いIoTガスセンサーとして呼気モニタリングシステムを目指すとしている。