東大ら,大面積有機半導体単結晶で歪みセンサー

東京大学,産総研・東大先端オペランド計測技術オープンイノベーションラボラトリ,物質・材料研究機構,パイクリスタルは,簡便な印刷法を用いて製造された大面積・高性能有機半導体単結晶ウエハーの表面に,非破壊かつ高選択的に二次元電子系を形成するドーピング手法を開発し,従来の金属製歪みセンサーの10倍程度の感度を有する歪みセンサーの開発に成功した(ニュースリリース)。

安価に大量生産可能な次世代の電子材料として,現状のシリコン半導体に置き換わると期待されている有機半導体の単結晶を製造することが可能になってきた。研究グループは,独自の有機半導体材料と印刷技術を用いることで,極薄有機半導体単結晶膜の4インチ級ウエハーを作製できることを実証している。

しかしながら,特徴的な形や大きさを持つドーパント分子を導入することで,緻密に設計された分子の結晶性が乱されてしまうため,このような分子の単結晶の結晶性を破壊することなく,不純物ドーピングを用いて安定的に電子を供給することはできなかった。

研究グループは,今回,有機半導体単結晶薄膜をドーパント分子が溶解した溶液に浸漬するだけの簡易な手法を用いて,有機半導体の表面のみにドーパント分子を反応させ,非破壊かつ高密度の不純物ドーピングを達成した。ドーピング後でも,有機半導体の単結晶性が維持され,表面に高密度の二次元電子系が形成されていることが明らかとなった。

このような簡便な手法を用いて,有機半導体単結晶デバイスの抵抗を精密に制御でき,適切なドーピングを施した場合には,抵抗値を7桁以上下げることが可能となったという。また,結晶性が完璧に保持されているため,単結晶性に特有の巨大歪み応答効果も顕在化した。

その結果,外部からの応力に敏感に応答し,抵抗値が変わるフレキシブル歪みセンサーを実証することにも成功した。この基盤技術を用いて,厚さ7μmのフレキシブル基板上に有機半導体を印刷し,さまざまな曲面に貼り付け可能な歪みセンサーを開発した。開発したセンサーの感度は従来の金属製歪みセンサーの10倍程度であり,繰り返しの使用にも耐える安定性も有している。

今回の成果により,有機半導体単結晶表面に機能性分子を反応させる新しい基盤技術が確立されたとする。また,より高性能な有機半導体材料やドーパント材料の開発により,安価かつ大量生産可能な歪みセンサーデバイスの開発が促進されることが期待される。特に,IoT社会に必要なRFIDタグやトリリオンセンサーユニバースにおける大きな貢献が期待されるとしている。

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