物質・材料研究機構 (NIMS)と東京工業大学は,安価で毒性の無いカルシウム,シリコン,酸素から構成される「Ca3SiO」が,赤外線用のLEDや検出器として応用が可能な直接遷移型の半導体であることを発見した(ニュースリリース)。
赤外線は,光ファイバー通信,太陽電池,暗視装置等に用いられる産業上,非常に有益な波長帯。これまで,赤外線領域で利用される半導体として,テルル化カドミウム水銀,ヒ化ガリウムなどの毒性元素を含む材料が用いられてきた。
一方,毒性のない元素からなる赤外半導体は間接遷移型のため,発光特性などが期待できない。そこで,毒性のない元素から構成され,かつ,バンドギャップが赤外線領域にあり,高機能素子への応用が可能な直接遷移型半導体の開発が望まれていた。
研究グループは,毒性元素を含まない半導体を見つけ出すために,まずは従来の半導体の探索指針とは異なる指針を検討した。従来は,周期表のⅢ族-Ⅴ族,または,Ⅱ族-Ⅵ族のように,周期表のⅣ族元素の左右に位置する元素を組み合わせて,バンドギャップなどの半導体特性を制御してきた。そのため,テルル化カドミウム水銀,ヒ化ガリウムのように,毒性元素が含まれる組み合わせを利用しなくてはならなかった。
そこで,通常+4価の陽イオンとしてふるまうシリコンが,-4価の陰イオンとして寄与する結晶構造に着目した。そして,逆ペロブスカイト型結晶構造を持つ酸珪化物であるCa3SiOなどの物質群を選択し,その合成,物性評価,および,理論計算を進めた結果,それらのバンドギャップが約0.9eV(波長では1.4μm)という小さな値を示し,直接遷移型の半導体となることを見出した。
バンドギャップが小さいほど長波長の赤外線を吸収したり,検出したりできる材料となり,また,直接遷移型であることから,赤外線発光特性や,薄くしても光を漏らさず吸収する特性が期待できるため,LED等の赤外線光源や赤外線検出器を構成することのできる新しい近赤外線向け半導体として非常に期待できる材料だという。
研究グループは今後,発見した半導体の大型単結晶の合成,薄膜成長プロセスの開発,ならびに,ドーピング・固溶による物性制御を進め,赤外線領域の高輝度LEDや高感度検出器の開発を目指す。これらの実現によって,これまで用いられてきた毒性元素を含む近赤外線向け半導体素子を,毒性の無い元素で構成された素子に代替させることができるとしている。