京都大学は,高強度短パルスレーザーで駆動される電子ビームを用いて,ジッターフリーな超短パルス電子源の開発に成功した。また,この電子パルスを用いた超高速の電磁場観察に成功した(ニューリリース)。
ある“とても短い時間”のうちに起こる現象をとらえるためには,“それと同等の時間”だけ観察対象を照らすことのできる短パルスな量子ビームを用いる。短パルス量子ビームの中でも,特にエネルギーが数10keVから数100keVの電子パルスは,溶解や凝固,化学結合の切断・ 結合といったピコ秒からフェムト秒の間に変化する内部構造変化や超高速に変化する電磁場など,様々な超高速現象を観測する研究への応用が期待されている。
より早い現象をとらえるべく,より短いパルス幅を持った電子ビームの開発が,2000年頃から急速に発展してきた。しかしながら,電子が持つ電荷に起因する空間電荷効果のために,電子の短パルス化やタイミングジッターの低減が難しく,超高速に時間変化する様々な現象の可視化へ向けた大きな障害となっていた。
研究では,高強度短パルスレーザーによって駆動される電子パルスと,時間変動する電磁場を排除した静磁場型の電子光学系を用いることで,ジッターフリーな超短パルス電子を開発することに成功した。
この電子パルスのパルス幅は100fsを下回り,エネルギーや電子数が同じクラスの電子パルスとして世界最高の性能を有している。また,この電子パルスの有用性を示すデモンストレーションとして,光パルスが真空中を光速で飛行している様子を撮影した。光パルスを電子パルスによってバックライトすることで,光パルスの影絵を,電磁場との相互作用によってダイレクトに,100fsごとに可視化することに成功した。
今回の成果により,電子―レーザーパルス間のタイミングジッターを生み出す原因を完全に除去できることが実証された。物質科学や生命学,エネルギー科学などの様々な分野において,未だ明らかにされていない超高速現象は数多くある。この研究で開発した高品位な電子パルスを利用することで,これまでに観測することの出来なかった超高速現象を直接捉えることが可能になり,幅広い分野の発展に貢献することが期待されるという。
研究グループは今後,今回実現した短パルス電子のさらなる高品位化を目指すとともに,まだ見ぬ超高速現象の観察を実施していく予定としている。