広島大学,高輝度光科学研究センター,東北大学は,高品質な単結晶試料と,10μmまで絞られた微小スポット軟X線放射光を組み合わせた角度分解光電子分光実験により,ホイスラー合金(Co2MnGe)の3次元的なバンド構造の直接観測に成功し,「ハーフメタル」なバンド構造を示していることを世界で初めて明らかにした(ニュースリリース)。
超スマート社会Soceity5.0の実現のために,爆発的に増加するデータの処理や,IoT機器の増加,あるいは人工知能によって消費される電力を桁違いに低減する技術が必要となる中,電子のスピンを利用して情報を記録・伝達する次世代のスピントロニクスデバイスが注目されている。電子のスピンを利用することで,外部電源が不要な省電力メモリやさらなる高密度・高性能化が期待される。
電子のスピンを制御するためには,例えば上向きスピンを持った電子は通し,下向きスピンを持った電子は通さないといった,スピン選択的な電気伝導性を示す材料が必要となる。Co2MnGe に代表されるホイスラー合金は,理論的にハーフメタルな電子構造を持つことが予言されており,Co2MnGeを用いたスピントロニクスデバイスの開発も行なわれてきた。
しかし,未だ実用化には至っておらず,そもそもの電気伝導性の起源である電子のバンド構造の直接観測が求められてきた。電子のバンド構造を観測する強力な手法として,角度分解光電子分光(ARPES)が知られているが,高い規則度と原子レベルで平坦な清浄表面を必要とする。
ホイスラー合金のように3次元的な結晶構造を持ち,元素置換の起こりやすい合金系でのバンド構造の観測は困難で,古くから研究されているにも関わらずそのハーフメタル性の起源となるバンド構造を実験的に確かめた報告は未だなかった。
研究では高品質な単結晶試料を超高真空中で破断し,非常に絞られた放射光を用いて10μm程度の大きさの平坦表面を狙って測定するという大胆な手法により,今まで明らかになっていなかったCo2MnGeホイスラー合金の3次元的なバンド構造を初めて観測した。さらに,観測されたバンド構造は理論計算結果とよく対応し,Co2MnGeがハーフメタルなバンド構造をもつことを実験的に明らかにした。
研究グループはこの研究成果について,より高い性能を示すスピントロニクス分野におけるデバイス開発や理論計算による物質開拓にも強力な指針を与えることが期待されるといている。