名古屋大学は,窒化ガリウム結晶(GaN)に格子整合する新たな窒化物半導体AlPNの合成に成功した(ニュースリリース)。
GaNを用いた高電子移動度トランジスタ(HEMT)は,高周波で動作し,効率よく電力を電波に変換できるため,5G基地局などで広く使用されている。また,次世代(6G)通信システムの構築に向けて,より高性能なHEMTの開発が必要とされている。
現在のGaN-HEMTでは,GaN結晶の上にAlGaN結晶を形成した結晶が使用されている。AlGaN層は,トランジスタ信号として働く電子を発生させ,この電子が,AlGaNとGaNの界面を流れることで,トランジスタが動作する。
電子供給層として,AlGaN 結晶よりも自発分極の強い,例えばAlNのような結晶を使うと,トランジスタの特性向上が可能であることが知られている。しかし,電子供給層として用いる結晶の原子の間隔がGaN結晶の原子の間隔と異なると,GaNとの界面で原子配列の乱れが起こるため,高い電子移動度は得られない。
研究では新たに窒化物半導体,AlPyN1-y結晶の合成に取り組み,P組成yを0.1近傍で精密に制御することにより,GaNとAlPyN1-yとの原子間隔の一致の度合いを制御し,AlPyN1-y結晶層内部の欠陥の発生を抑制しつつ,AlPN層とGaN層の間の界面での原子配列をよく整合させることに成功した。
高分解能X線回折法により,実験で作成したAlPyN1-y(P=0.103)/GaN 積層構造を評価した。(0002)回折点近傍の強度分布の測定結果と,この構造が形成されたときに観測されるX線回折強度分布のシミュレーション結果がよく一致し,設計通りのAlPyN1-y(P=0.103)/GaN 構造が形成されていることがわかった。
また,回折点近傍の逆格子マップから,AlPyN1-y(P=0.103)結晶の原子配列が下地のGaN結晶に整合していることも示された。この結晶ではPの含有率が低く,AlNと同様の,強い自発分極が起きていると考えられ,トランジスタ特性向上を可能にすると考えられるという。
研究グループは,この成果を応用して実現されるトランジスタにより,通信システムの高速化,小型化・高効率化が期待され,5G通信システムの普及,さらには6G通信システムの開発に大きく貢献するとしている。