Kyuluxは量子化学計算と機械学習を組み合わせたマテリアルズ・インフォマティクス(MI)を用い,独自の有機EL「Hyperfluorescence(ハイパーフルオレッセンス)」による発光技術の高効率化と長寿命化に成功した(ニュースリリース)。
九州大学が見いだしたHyperfluorescence技術は,TADF材料と蛍光材料を組み合わせた発光技術。TADFで発生させたエネルギーで蛍光材料を発光させることにより,内部量子効率が100%と,蛍光材料だけの場合の4倍になり,TADFの欠点である色純度の低さを解消する。
りん光に劣らない高効率と蛍光ならではの高い色純度を実現するとともに,りん光材料のようにレアメタルを含まずコストも抑制できる,革新的な発光技術として期待されている。実用化を目指してさらに高効率化,長寿命化するには,蛍光材料に組み合わせる最適なTADF材料を見いだすことが重要な課題となっている。
しかし,従来の材料開発は,技術者が提案した候補材料について量子化学計算で物性を予測し,それに基づいて選んだ材料を合成して評価していたため,膨大な労力を要していた。
研究では,機械学習,量子化学計算,実験を統合したマテリアルズ・インフォマティクスのシステム「Kyumatic(キューマティック)」により,短期間で目標を達成した。
技術者が提案した材料を基に,コンピューターが材料設計ルールに従って候補材料を1万個以上生成。そのうち数百個の材料を量子化学計算し,結果を人工知能に機械学習させて残りの材料の物性を予測する。
予測結果から有望な材料を技術者が選定し,実際に合成して性能を確認する。候補を絞ってから実験できるので,開発スピードを10倍以上に速められる。さらに実験結果も機械学習して,物性予測精度を高めているという。
研究では,発光層内の電子輸送性と正孔輸送性とをバランスさせて電荷が結合する領域を広げ,高効率化と長寿命化を同時に達成した。発光層に1種類のホスト材料を使うシングルホストではなく,電子輸送性のホスト材料を加えて使うコホストにすることによって,発光層内での正孔の輸送性能と電子の輸送性能とをバランスさせた。これにより電子輸送層側に偏っていた電荷結合領域を発光層全体に広げ,その結果,外部量子効率を従来比で20~40%向上し,寿命を最大10倍に伸ばすことに成功した。
研究グループは今後,この成果をもとに有機ELの高解像度,高輝度,高効率と低コスト化を実現し,次世代の発光技術として広く普及すると見込んでいる。