量子科学技術研究開発機構(量研),理化学研究所(理研),大阪大学らは,パルス状のテラヘルツ光を水面に照射すると光音響波が発生し,テラヘルツ光の届かない水中にまでエネルギーが効率良く伝わることを発見した(ニュースリリース)。
テラヘルツ光は,周波数1テラヘルツ(波長~0.3mm)領域の電磁波として医薬品や高分子材料の分析,また透過イメージングによる検査等に応用されている。一方で,テラヘルツ光は水に非常に良く吸収されるため,水に照射しても表面で全て吸収され,水中への作用はないとこれまでは考えられていた。
今回,研究グループは大阪大学の自由電子レーザーによって発生させたパルス状のテラヘルツ光を水面に照射する実験を行ない,水中に起こる変化を可視化することに初めて成功した。パルス列には37ns間隔で約100個程度のテラヘルツ光が含まれている。
周波数4THz,パルス幅2psのテラヘルツパルス列を石英セルに満たした水面に照射し,水中で発生した現象をシャドウグラフ法を用いて観測したところ,光音響波が発生して水中に伝播していく様子が観測された。見積もられる光音響波の速度は1506m/sとなり,これは26℃の水中での音速と一致した。
その結果,テラヘルツ光は,水の表面のごく薄い領域(10μm程度)で吸収され,プラズマ生成等の破壊的な現象による周囲への影響を起こすことなく光音響波を発生し,その音響波によってテラヘルツ光自体の届かない6mm以上の深さにまで指向性良くエネルギーが伝わることを明らかにした。
この発見は,テラヘルツ光を水に照射するだけの極めて簡便な方法で,周辺への影響を最小限に抑えながら水中の物質に非接触でエネルギーを与えることのできる新たな技術となるもの。既に研究グループは,この技術により生体細胞内に存在するアクチン繊維を,細胞死を招かず切断することに成功したという。
従来の機械的超音波発生法に加えて,テラヘルツ光を用いた非接触な発生法が新しく生まれる事で,医療診断や治療など様々な応用が考えられるほか,水中環境下で細胞やDNA,高分子材料等を非接触で操作するといった,生命科学や材料開発等への応用が期待されるとしている。