東北大学と理化学研究所(理研)は,微小加熱ヒーター機構付き試料メンブレンを用いた「加熱その場X線タイコグラフィ」により,スズ-ビスマス(Sn-Bi)合金粒子の融解過程のナノスケール観察に成功した(ニュースリリース)。
X線タイコグラフィの高い空間分解能は,試料周辺の温度変化による熱ドリフトを抑制することで実現されている。しかし,熱ドリフトの抑制は,高温条件下における試料観察の妨げにもなっていた。
今回,研究グループは,計測試料の加熱範囲を最小限に抑えるため,専用の微小加熱ヒーター機構付き試料メンブレンを新たに作製し,それを用いてX線タイコグラフィ計測を行なった。
通常試料のマウントに用いられる厚さ1μmのシリコン窒化(SiN)薄膜メンブレンチップの透過窓領域の上に,ヒーターとして加熱される白金(Pt)の細線をイオンプレーティング法により作製した。このヒーター付きメンブレンチップに真空雰囲気下で直流電流を加えると,与えた電流量に応じてメンブレン透過窓部が再現性良く加熱されることが示された。
作製した微小加熱ヒーター機構付き試料メンブレン上に,スズ-ビスマス(SnBi)合金粒子を担持したものを観察試料として,大型放射光施設「SPring-8」で加熱,その場X線タイコグラフィ計測を行なった。具体的には,外部直流電流を制御することで試料温度を室温から267℃の範囲で加熱しつつ,各温度でSn-Bi合金粒子400nmの走査間隔で二次元走査しながら回折パターンを測定した。
得られた回折パターンデータに位相回復計算を実行すると,各試料温度でSnBi合金粒子の再構成位相像を25nm空間分解能で得ることができ,試料の熱ドリフトの影響を最小化することに成功した。Sn-Bi合金は,室温付近でBiが多い相とSnが多い相が混在した共晶組織を形成することが知られており,室温でのSn-Bi合金粒子はその共晶組織を反映した位相コントラストを示した球形をしている。
試料温度を室温から徐々に上げていくと,135℃では粒子の球形は維持されているものの,内部の共晶組織の界面の位置が動いていき,151℃で最終的に一つの均一な結晶相に変化する様子を観察できた。さらに加熱すると,167℃では粒子の球形が崩れ,Sn-Bi合金が外部へ融解していく様子を捉えることに成功した。
研究グループでは現在,X線タイコグラフィ計測の強みである高空間分解能を維持しつつ,特定の気体雰囲気下・電気化学操作下での計測を実現できる試料セルの開発を進めているという。