産総研ら,酸化チタンで新たな太陽電池を開発

産業技術総合研究所(産総研)と独フラウンホーファー研究機構は,原子層堆積法で製膜した酸化チタン薄膜(厚さ:約5nm)がテクスチャー構造をもつ結晶シリコンの表面欠陥を不活性化する機能と,結晶シリコンから正孔を選択的に取り出す機能をもつことを発見した(ニュースリリース)。

結晶シリコン太陽電池は結晶シリコン表面の欠陥が多いと光励起した電子と正孔は再結合により消滅してしまう。アモルファスシリコンはこの表面欠陥を電気的に不活性化するが,可視光を吸収しエネルギーの損失につながるため,受光面のアモルファスシリコンをできる限り薄くする必要があった。

また,アモルファスシリコンの製膜は一般的に設備投資や維持費が大きい。そこで研究グループは,アモルファスシリコンよりも透明で,安価に製造できる材料として酸化チタンに着目した。

今回,チタンを含む有機金属錯体と水蒸気を原料とし,原子層堆積法で酸化チタンを製膜した。ピラミッド形状のテクスチャー構造をもつn型結晶シリコンの表面に厚さ約5nmの非晶質の酸化チタンを製膜した後,ITOの透明電極を製膜し,さらに銀(Ag)のグリッド電極を形成して,これを正極とした。負極にはヘテロ接合型結晶シリコン太陽電池で一般的に用いられる構造を用いて太陽電池を作製した。

この太陽電池の性能にはまだ改善の余地が残っているものの,これまでに21.1%の変換効率を得た。この値は従来のヘテロ接合型結晶シリコン太陽電池の性能(研究室では22.3%)に匹敵する。

酸化チタンは,シリコンに限らずさまざまな材料に対して電子選択性が高いことが知られ,有機系太陽電池などの負極材料に用いられているが,今回初めて,酸化チタンが正孔選択性と欠陥不活性化能をもち,正極として機能することが実証された。

このような従来と全く逆の性質を示すメカニズムについて調査した結果,酸化チタンと結晶シリコン界面に存在する相互混合層(チタン,シリコン,酸素,水素からなる)の組成やその分布により,欠陥不活性化能と正孔選択性を制御できることが明らかになったという。

研究グループは,正孔を選択的に取り出すという酸化チタンの新しい機能を見いだしたことで,酸化チタンの応用が広がることが期待されるとしている。

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