国立情報学研究所(NII),日本電信電話(NTT),東京理科大学,大阪大学,JFLI(Japan-France Laboratory of Informatics)は,時間結晶と呼ばれる時間的な結晶状態の中から複雑なネットワーク構造を発見した(ニュースリリース)。
様々な現象は,ノードがエッジで繋がったネットワークとしてグラフ的に表わすことができ,ネットワークを用いた解析は社会現象から経済,生物まで様々な現象に広く応用されている。現実世界のネットワークではスケールフリー性を示すものが多く,数多くのノードからなるため,高い計算力が必要とされてきた。
近年世界規模で研究開発が加速化する量子コンピューターや量子シミュレーターは,このような問題の解明にも役立つことが期待される。ところが,これまで量子コンピューターや量子シミュレーターと複雑ネットワークの関係はあまりわかっていなかった。
一方,時間結晶はその物理的な特異性から注目され,2017年に離散的な時間結晶が実証された。とはいえ,現象の本質やその応用については多くが未解明なまま,現在に至っている。
研究では,量子の世界で複雑ネットワークを生み出す源として時間結晶を用い,まず,通常の結晶でみられる「結晶が融ける」(例えば氷が水になる)という現象が時間結晶でどのように起こるのかを初めて解析した。時間結晶がゆっくりと融けていくにつれて,スケールフリー・ネットワークのような複雑なネットワーク構造が現れることを数値解析によって発見し,その変化の様子を視覚的にも捉えることに成功した。
また時間結晶は,量子コンピューターや量子シミュレーターで作り出すことができる。時間結晶が融ける際に示す,この性質を利用することで,巨大なネットワークを小さな量子コンピューターの中で解析できるようになる。
例えば,これまでに20量子ビットから53量子ビットをもつ量子コンピューターが登場しているが,これらの量子ビット数で生成できるネットワークは,20量子ビットで約100万ノード,53量子ビットではノードの数は10の15乗となる。2020年時点での予想されている世界のIoTデバイス数400億と比較しても十分に大きなネットワークを生成できる。
小さな時間結晶で大きなネットワークを包含することができるので,小さな量子コンピューター上で巨大な複雑ネットワーク解析やデータの指数的圧縮などを通じて,様々な応用が期待されるという。また基礎研究においても,量子複雑系や量子多体系,固体物理の量子的な性質の解明に新しい道筋がついたことになるとしている。