東北大学と仏ロレーヌ大学光は,磁石と電子スピンの相互作用に関する詳細な理解に基づいて,30fsのレーザーパルスで磁石の極性を反転できる新手法を開発した(ニュースリリース)。
人類が生成する情報量は年々指数関数的に増大している。今後,仮に情報を蓄えるためのストレージ技術の水準が変わらないとすると,2040年には情報ストレージが必要とする電力は人類が生み出せる全電力のレベルにまで達すると言われており,情報ストレージ技術の省エネルギー化は,これからの情報社会が解決すべき重要課題である。
今回,東北大学と仏ロレーヌ大学の研究者からなる共同研究グループは,デジタルデータの記録手法への応用が可能な,光を用いた強磁性体の磁化(磁石のN極/S極の方向)の新しい制御手法を開発し,その動作実証に成功した。
試料はフェリ磁性体であるGdFeCo,非磁性体である銅,および強磁性体であるCo/Ptからなる積層構造で構成されている。ここにレーザーパルスを照射し,フェリ磁性層と強磁性層の磁化がどのように変化するかを,磁気光学効果を用いた顕微鏡で観察した。
同様な材料系での実験は以前にも行なわれており,そこではフェリ磁性体の磁化方向の反転とそれに伴う強磁性層の磁化方向の反転が観測されていた。
今回研究グループは,系統的な実験をもとにこの現象のメカニズムを解明し,フェリ磁性体の反転の際に生成されるスピン流が非磁性層を伝播して強磁性層に到達し,それが強磁性層の磁化反転を誘起していることを突き止めた。
そしてこの理解に基づきエネルギー効率を向上できるように材料をデザインし,フェリ磁性体を反転させずに強磁性層の極性を反転させる新しい方式を開発し,またこの場合に従来方法よりも高いエネルギー効率が達成できることを実証した。発表した論文では30fsの単一レーザーパルスを用い,低エネルギーで強磁性層の磁化を反転できることを示した。
現在の情報ストレージ技術では,磁石材料で構成される磁気記録媒体における磁化の方向でデジタル情報が記録されており,その反転には磁界が用いられているが,この方式には今後の省エネルギー化や大容量化に向けた課題が顕在化している。
今回開発した方法はこの技術を代替して課題を解決しうるものであり,情報ストレージ技術やそれを取り巻く情報社会を変革する技術へと発展することが期待されるとしている。