宇都宮大学は,MRIの撮影時間短縮化と画像の高画質化を目指して画像生成に深層学習を導入し,画像生成処理に必要な時間を,従来のAIによらない方法に比べて大幅に短縮することにし成功した(ニュースリリース)。
医用画像診断装置であるMRIは,X線CTなどの他の装置と比較して,高品質な画像を得られる反面,1回の撮影で数十分単位の時間を要する課題がある。撮影の高速化法として,少数の観測信号から元信号を推定する圧縮センシングを応用する試みが一部実用化されているが,以下の問題があった。
①撮影時間は短縮化されるが,その後の画像生成に数理的な反復処理を伴うため,再構成時間が長くなり,撮影してから診断まで長時間化する。
②生成された画像が人工的な様相を呈し,微弱なコントラストが失われる。
研究では上記の問題の解決に向け,圧縮センシングにおける再構成処理を深層学習によって行なう手法を提案した。畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を用いた画像空間上で完結する方法をベースにして画像再構成処理の高速化を図り,収集した信号の情報も活用することで,再構成画像の高品質化を図った。
CNNの学習が容易な再構成のアプローチとして,信号を間引いた際に画像に生じる”乱れ”に着目した。MRIでは,収集信号のフーリエ変換により画像を得るが,間引き信号のフーリエ変換像には、”乱れ”(折り返しアーチファクト)が発生する。この乱れが重畳した画像からCNNで乱れ成分のみを抽出し,「乱れのある画像-抽出した乱れ成分=再構成画像」を生成した。
また,観測した信号の収集点における信頼度を高めるために,実際に収集を行なった信号が存在する観測点では,その信号を置換する方法により,収集点では実信号を,非収集点ではCNNの推定によって復元した信号を利用した。
開発した手法と従来手法をシミュレーションで比較した結果,信号間引きによって撮影を高速化した条件のもとで,画像1枚あたりの再構成時間を従来手法の十数秒から0.022秒に短縮できた。また,信号量を60~70%削減した場合に従来手法では構造的特徴の欠損,乱れ成分の残存や強い平滑化が見られたが,新手法では目標画像に近い高品質な画像が得られたという。
これまでの数理的な反復再構成法では,画像の品質低下を避けるために,信号削減量を50%程度にとどめることが一般的であった。今回の手法は,画像品質を維持しつつ,信号量のさらなる削減を行なえる可能性がある。今後は,より実用的な条件や制約下での再構成法を検討するとしている。