愛媛大学は,光照射によって可逆的異性化反応を示すジアリールエテンのナノ粒子にナノ秒パルスレーザーを照射すると,その光異性化反応が溶液系と比較して最大で80倍高効率に起こることを見出した(ニュースリリース)。
固体中の有機分子に,短パルスレーザーのような光子密度の高い光を照射すると,複数の分子と複数の光子とが相互作用をして,通常の光では起こらない化学反応を引き起こす可能性がある。
研究では,固体試料としてジアリールエテン分子に注目した。この分子は,光照射によって無色透明の開環体と有色の閉環体の間で可逆的に異性化反応を示す。この光異性化に伴い,色だけでなく,蛍光,屈折率,電気伝導率などの物性が瞬間的に変化する。
近年ではジアリールエテン固体に光を照射すると,固体自体が折れ曲がったり,伸縮したりするフォトメカニカル機能を持つことも報告されており,次世代の光エネルギー変換材料としても注目されている。
研究では,ジアリールエテン閉環体のナノ粒子固体を作製し,光子密度の高いナノ秒パルスレーザー(励起波長 532nm,パルス幅6ns)を1発照射し,ナノ粒子中の閉環体分子から開環体分子への反応量を調べた。その結果,反応量は,ナノ秒パルスレーザーの照射強度(光子密度)に対して3次の傾きを持って増大した。
同じ濃度で分子状に分散した溶液系においては,反応量は照射強度に対して単調に(1次の傾きで)増加した。つまり,ナノ秒パルスレーザー照射による反応量の非線形増大は,ナノ粒子固体のみで起こることを初めて見出した。
この反応量の増大メカニズムを説明するため,定常分光および時間分解分光測定の結果をもとに,研究グループは「1つのナノ粒子中で,ナノスケールでの光熱変換過程と光化学反応との協同効果」を提案した。これは単純にナノ粒子全体を温めて起こる反応とは異なり,ナノスケールのレーザー過渡加熱(励起分子の光熱変換とナノメートルスケールでの熱伝導)が反応増大の鍵となる。
つまり,ナノ秒パルスレーザーの1つの光子によって励起された1つの閉環体分子が,ピコ秒という短い時間に隣接する複数の分子を温め高温分子クラスターが生成し,この高温分子クラスター中の分子が残りの光子を吸収することで反応が効率よく進行する。
このような協同現象が起こるためには複数の光子と複数の分子が相互作用する必要があり,分子密度の高いナノ粒子固体と光子密度の高いパルスレーザーの組み合わせで初めて起こりる。今回の提案は,これまでの多光子―一分子の光応答とは異なる新たなレーザー光反応(多光子―多分子の光応答)として注目されるとしている。