九州大学と中国Changchun Institute of Applied Chemistryは,有機・無機ハイブリッドペロブスカイトレーザーにおけるレーザー作用の抑制因子を解明することで,室温・空気中において安定した連続波レーザー(CW)の発振に成功した(ニュースリリース)。
レーザー光は,LEDとは異なり,コヒーレント光源であり,科学研究,通信,製造,エンターテインメントなど,現代社会における私たちの生活の様々な用途に利用されている。
レーザーは,利得媒体,励起光源,光共振器から構成されており,特に利得媒体は誘導放出によって光を増幅するための鍵の材料となる。なかでも,有機・無機ハイブリッドペロブスカイト材料は,波長選択性,優れた安定性,溶液塗布法による低コスト化など,次世代のレーザー利得媒体として有望視されている。
研究では,擬二次元ペロブスカイト構造において,低い三重項エネルギー状態を有する有機配位子を構造内に組み込み,長寿命の三重項励起状態をハロゲン化鉛の無機層から有機層へエネルギー移動させることで,パルスおよびCW光励起レーザー発振に成功した。
配位子としてPEAおよびNMAを含有するペロブスカイトの構造(P2F8,N2F8)と三重項エネルギー移動において,P2F8では PEAの三重項エネルギーが高いために,無機層からPEAへのエネルギー移動は困難だが,N2F8では容易に三重項エネルギーが NMAに移動し,三重項励起子を効果的に無機層から除去することが可能となった。
これらのエネルギー散逸過程のメカニズム解明に基づき,レーザーに必要なDFB構造を適用することで,CW励起下において安定した緑色の擬二次元ペロブスカイトレーザーの開発に成功した。CWレーザーの発振強度は,相対湿度55%の空気中において,1時間後でも顕著な発振特性の劣化は観測されず,高い安定性が明らかになった。
今回の光励起による室温・空気中のCW発振は各種計測用光源など実用的なアプリケーション開発への道を切り拓くと共に,次世代フォトニクスデバイス光源として期待される電流励起レーザーへの重要なステップとなるという。研究グループは,近い将来,電気的励起によるペロブスカイトレーザーへの展開を進めていくといている。