東北大学は,高効率な太陽電池の実現への突破口となる硫化スズ結晶の大型化に成功した(ニュースリリース)。
昨今応用の進むCdTe太陽電池やCIGS系太陽電池は高効率な発電が可能であるものの,希少金属や有毒元素を含む。これに対し,硫化スズ(II)は希少金属や有毒元素を一切含まず,地球上に豊富に存在する無毒な元素のみで構成されるため,環境に優しい次世代太陽電池の候補材料として期待を集めている。
高効率に発電するためには,伝導特性の異なるp型とn型の硫化スズを組み合わせたpnホモ接合を作り,発電効率を下げる要因となる欠陥を減らす事がポイントとなる。しかし,p型の硫化スズは簡単に作製できるのに対し,n型の硫化スズは容易に作製できないため,pnホモ接合の太陽電池の試作には至っていなかった。
過去20年に亘り,p型の硫化スズをn型の異種材料と組み合わせたpnヘテロ接合による太陽電池の試作と改良が繰り返されているが,その発電効率は頭打ち状態で,応用の目処はたっていない。硫化スズ太陽電池の実用化には,pnホモ接合を容易に試作可能な,幅10mmを超える大型のn型の硫化スズ結晶を作ることが突破口となる。
研究グループは,n型硫化スズ結晶の大型化の実現のため,単結晶を育成する「フラックス法」に用いるフラックス組成を見直した。組成を大幅に改良した新しいフラックスで育成した結果,硫化スズにn型伝導をもたらすためにフラックスに添加した塩素や臭素のハロゲン成分が,結晶の大型化にも大きく寄与することを発見した。
この大型化技術を用いることで,最大で幅24mmにまでn型の硫化スズ単結晶のサイズを大型化することに成功した。得られた硫化スズの構造や電気特性を詳細に調べたところ,高い結晶性,高い電子の伝導性,適切なフェルミ準位をもつ,非常に良質なn型単結晶であることがわかった。
n型の硫化スズ単結晶上にp型の硫化スズを成膜することで,pnホモ接合の太陽電池を試作することができる。今回の成果により,pn接合の試作時のハンドリングが大幅に容易になることに加え,様々なp型層の成膜条件でpnホモ接合を同時に複数個試作することもできるという。
研究グループは,pnホモ接合により,pnヘテロ接合では頭打ちであった状況を一蹴し,硫化スズ太陽電池の開発速度は劇的に上昇すると期待する。実用化に向けた突破口が開けたことにより,環境に優しく高効率な硫化スズ太陽電池の実現に大きな期待がもてるとしている。