理化学研究所(理研)は,植物細胞に適した,標的分子の細胞内移行プロセスを可視化できる新しいラマンプローブを開発した(ニュースリリース)。
植物細胞は,人間にとって有用な多くの二次代謝産物を合成する。近年の遺伝子工学技術は,これらの代謝産物の生産性向上に大きく貢献してきた。
その技術の一つに,高分子担体との複合体を用いた方法がある。この方法で,さまざまな生理活性分子を細胞内へ輸送することが可能となり,遺伝子組換えによる物質生産効率の向上が期待できる。
生理活性物質をより効率良く細胞内へ輸送するためには,さまざまな物質が細胞内に取り込まれる経路を明らかにする必要がある。しかし,そのためのツールとして現在汎用されている蛍光プローブでは,生体内での非特異的な相互作用や予期せぬ化学反応を避けるために,各標的分子や標的細胞に応じて,プローブを設計する必要があった。
そこで研究グループは,より広範な標的分子に適用できるラマンプローブに着目した。ラマンプローブは,ラマン顕微鏡を使用することで,プローブが持つ特定の化学構造に起因する振動を直接検出することができる。また,ラマンプローブは生体内で反応性の低い官能基を持つことから,さまざまな標的分子に共通して使用することができる。
しかし,ラマンプローブは,いずれも疎水性で植物細胞への浸透性が低く,細胞毒性を持つという課題があった。そこで研究グループは,強力なラマン強度を持つジフェニルアセチレンに,親水性かつ生体適合性の高い高分子担体を付加することで植物細胞への浸透性を高め,これらの課題を克服した。
今回,研究グループは,ジフェニルアセチレンと特定の高分子担体を組み合わせることで,植物細胞に適した,高いラマン感度と膜透過性,および低い細胞毒性を示す実用的なラマンプローブの開発に成功した。
また,プローブに含まれるジフェニルアセチレン部位に,反応性の官能基を付与することで,細胞内へ送達したい物質を結合することができる。植物細胞でこのようなラマンプローブを使用することで,細胞内への物質輸送プロセスに関する新たな知見が期待できるとしている。