東京理科大学,仏国立科学研究センター,あいちシンクロトロン光センター,名古屋大学らの研究グループは,アミロイドタンパク質の安定な凝集構造が赤外自由電子レーザー(IR-FEL)の照射により解離する現象の機構について,実験と理論計算を組み合わせることによって詳細に説明を行なうことに成功した(ニュースリリース)。
アミロイドはある種のタンパク質分子が分子間水素結合などで凝集した安定な構造を持つ不溶性の線維状物質であり,アルツハイマー病など一連の様々な疾患「アミロイドーシス」において生体組織に沈着,蓄積されるため,その原因物質と考えられている。そのためアミロイドの発生メカニズムや発生の抑制,分解などの研究と,生体中でも安全にアミロイドを分解できる手法の開発が求められている。
IR-FELは,自由電子のビームから電磁場により発生させた放射光を増幅させて取り出す位相のそろったレーザーで,赤外領域の波長を持つように設定されている。パルス波レーザーであるという特徴や,対象物質に対応させて強度や波長を調整できる等の利点がある。
東京理科大学では最近,ある種のアミロイドに,そのペプチド結合に含まれる炭素-酸素二重結合(C=O)の伸縮振動エネルギーに相当するIR-FELを照射することでアミロイドの凝集構造が解離することを見出した。
一方,仏国立科学研究センターは,独自の非平衡分子動力学シミュレーション(NEMD)を開発して赤外レーザーによるタンパク質凝集体の解離について計算科学の立場から研究を行なってきた。
理論計算では分子の動きを詳細に追える一方,タンパク質凝集体を含む膨大な原子数の系について計算することは時間的な制約がある。そのため,これまでは実験よりも大幅に高いレーザー強度を設定して,より短時間分のシミュレーションを行なってきたので,実験で示された結果を証明するものかどうかは分からなかった。
今回,研究グループでは赤外レーザーによるアミロイド線維の凝集構造の解離について,実験データを理論計算によって証明することを目的として初めて実験と理論計算を組み合わせた融合研究を実施した。
実験結果に対して,最安定構造をシミュレーションにより構築した系を用いて,理論計算でさらに検討を行なった。そこで行なったシミュレーションの結果は,赤外レーザー照射によるアミロイドタンパク質凝集体の解離について実験結果を良好に証明するものであると共に,その分子レベルでの詳細な機構を示すものだった。研究グループはこの成果について,アミロイドーシスの革新的な治療法開発につながる可能性があるとしている。