岡山大学の研究グループは,世界に先駆けて,作製が非常に難しい新しい炭素材料Qカーボンの作製を再現することに成功した(ニュースリリース)。
Qカーボンは2015年に発見された非晶質の炭素同素体。室温での強磁性的振舞い,わずかなエネルギーでの発光,ダイヤモンドを凌ぐ硬度,ホウ素ドープによる超伝導などの特性を示すため,省エネやエネルギー問題を解決するための有力材料になると期待されている。
新材料としての可能性の高さから,現在Qカーボンの作製を再現するための研究が世界的に行われている。しかし,その作製は容易ではなく,これまでにQカーボンの研究は発見者グループに限られていた。そのため,Qカーボン作製の再現とあわせて,作製方法を明らかにすることが望まれていた。
Qカーボンはレーザーを使った極短時間のプロセスにより生成される。原料にダイヤモンドライクカーボン(DLC)と呼ばれる炭素膜を用い,この原料膜にナノ秒レーザーを照射する。レーザー照射によって溶けた炭素膜が超過冷却状態となり,その後超高速急冷されるとQカーボンが得られる。
レーザー照射によってDLCからQカーボンができるまでの時間は数百ナノ秒といわれており,Qカーボンの作製を再現するには,溶けた炭素膜の過冷却度と急冷度を実験パラメータによって適切に調節することが重要となる。
研究グループは今回,溶けた炭素膜の過冷却度と急冷度が照射するレーザーの強さ(レーザー密度)とDLC膜の熱的特性に強く依存することに着目し,これらを調整することでQカーボンを作製できると考えた。
実験の結果,作製した試料においてQカーボンの特徴であるフィラメント形状,および,室温で強磁性的振る舞いを観測し,Qカーボンの再現に成功したことを確認した。また,Qカーボンができる組み合わせは複数あり,Qカーボンの作製にはレーザーのエネルギー密度とDLCの熱的性質を適切に調節することが重要であることを明らかにした。
今回の成果は,Qカーボンを作製するための指針を示すもの。研究グループは今後,作製方法を確立するための研究を行なっていく。また,Qカーボンの示す特性に関する研究や,それらの特性をエネルギー分野に応用するための研究を進めていくとしている。