沖縄科学技術大学院大学(OIST)は,精密ナノ粒子を捕捉する技術の開発に成功した(ニュースリリース)。
ナノ粒子は非常に小さいが重要な役割を果たしている。例えばDNAやタンパク質,ウイルスを詳しく調べるのであれば,ナノ粒子を分離して観察することが不可欠となる。
ナノ粒子を捕捉するには,強電磁場が発生するポイントにレーザービームを強収束させる必要がある。レーザービームはピンセットのように粒子を捕まえることができるが,サイズに制約があり,粒子が小さすぎるとこの手法は使えず,既存の光ピンセットの技術では,単一のタンパク質のような直径わずか数nmしかない粒子を捕まえることは不可能だった。
研究グループは今回,メタマテリアルを基に光ピンセットを開発することで,こうした制約を克服した。具体的には,50nmの金のフィルム上にイオンビームを照射して,メタマテリアルから左右非対称のスプリットリングの配列を作成した。
この手法が機能するかどうかをテストするために,デバイスを近赤外線で照らし,デバイスの特定の領域に20nmのポリスチレン粒子を閉じ込めることに成功した。この種のメタマテリアルが単一ナノ粒子のトラッピング(捕捉)に使われるのは初めてのことだという。
この手法は,低強度レーザー出力を用いてナノ粒子を安定して捕捉でき,光による試料の損傷を回避しながら長期間使用できるという,2つの需要の高い技術を備えているという。開発したメタマテリアルは周囲の環境の変化に非常に敏感なため,低強度レーザー出力の使用が可能になった。
この技術はトラッピング性能の尺度を示すトラップ(捕捉)剛性を追求したもの。達成したトラッピング性能は,従来の光ピンセットより数倍高く,これまでに報告されている中で最高の性能だという。
ナノ粒子を操作・制御できることは生物医学の進歩にとって非常に重要だという。ナノ粒子を捕捉できれば,がんの進行の確認や効果的な新薬開発,バイオメディカル・イメージング技術の向上につながる可能性があり,社会の中で潜在的な応用範囲は非常に広い。
研究グループはこのピンセットを実社会での応用に使用できるかどうか確認するため,デバイスを微調整していく計画。具体的には,将来,効率的かつ経済的に診断結果を提供する携帯型の診断ツールである,ラボ・オン・チップ技術の開発に,このデバイスを活用できるようになるかもしれないとしている。