大阪大学,九州大学,ニコンの研究グループは,子宮頸部を生きた組織のまま,ホルマリン固定や染色を行なわずに,リアルタイムに3次元で観察できる方法を開発した(ニュースリリース)。
がんの最終診断には,病気が疑われる部位から組織片を切り取ってガラス標本を作製し,病理医が顕微鏡で観察・診断する“病理診断”が不可欠となっている。
しかしこの方法は,組織片の採取量が少ないと診断が確定できないことがある一方で,採取量を多くすると患者への負担が大きくなり,稀ではあるものの合併症を生じうることがある。
また子宮頸がんの場合,患者が同時に妊娠していることもあるが,妊娠中に子宮頸部の組織を採取することは,リスクが高いと考えられている。さらに従来の病理診断では,採取した組織片からガラス標本を作製するまでに,ホルマリン固定や染色など多くの処理工程が必要なため,患者が検査を受けてから診断できるまでに,時間がかかることも課題だった。
研究グループは,多光子励起顕微鏡を用いて,ヒトの組織の観察を行なった。これは,近赤外線により生じる組織深部の蛍光を検知し,組織を傷つけることなく,深い部位まで可視化できる技術。研究グループはこの技術を応用し,組織の切り取りや,ホルマリン固定や染色などの処理を一切行なわずに,生きた状態の子宮頸部組織を3次元で観察できる方法を開発した。
具体的には,超短パルスレーザーを用いて近赤外線を組織に当て,非線形光学現象による蛍光シグナルを利用して可視化する。この方法を用いると,組織を切り取ったり染色試薬を用いたりしなくても,“細胞の核”と“細胞周囲の線維”を詳細に描出することができた。
従来の病理診断と比べて,低侵襲で,しかもリアルタイムに組織画像を得られるのが,この方法の大きな特長。さらに,この画像をAIで解析することで,子宮頸部の正常組織,上皮内がん(非浸潤がん),浸潤がんの画像を,定量的に分類できることも分かッタ。
今回用いたイメージング技術を,医療機器へ応用することで,従来の方法よりも低侵襲・迅速・定量的ながん組織診断の実現や,早期がんの診断や治療後の効果判定も非侵襲的に行なえることが期待されるという。
また,デジタル画像データが迅速に入手できるため,AIを介した診断にも適している。さらには,発展途上国など医療専門職が少ない地域にもIoTを介した組織診断を提供でき,全世界の人々を対象に,がん診断を展開できるとしている。