東大,史上最薄となる高分子樹脂を開発

東京大学は,分子でつくったナノサイズの空間を鋳型として使うことで,極限的に薄い高分子シートを正確かつ大量に合成する手法を開発した(ニュースリリース)。

高性能化や軽量化が要求される製品開発においては,どれだけ薄い高分子シートを作れるかが重要となっている。しかし,一般的な塗布や延伸といった成膜法では薄膜化に限界があり,分子レベルまで薄い高分子シートを合理的かつ大量に合成することはできなかった。

研究では,金属イオンとそれをつなぐ有機物から合成され,ナノサイズの空間を有する多孔性金属錯体(MOF)と呼ばれる材料に着目。二次元状の空間(隙間)が規則的に並んだ構造を持つMOFを利用し,その隙間の中でモノマーを架橋重合すれば,分子レベルの厚さの極薄高分子シートが効率的に得られると考えた。

汎用的なビニルモノマーであるスチレンは約0.7nmの大きさを持つ。それよりも少しだけ大きい約0.8nmの隙間を有するMOFを合成し,その隙間にスチレン分子を入れることで,1分子の厚さの二次元空間内にスチレンを閉じ込めることができた。その状態でスチレンモノマーを架橋重合し,MOFを取り除くことで,1分子の厚さのポリスチレンシートを単離した。

この手法は反応のスケールアップが容易であり,グラムオーダーのポリスチレンシートの合成が可能なことも示された。一般にモノマーを架橋重合すると溶媒に不溶の固体になってしまうが,この高分子シートは溶媒に均一に分散し溶解することがわかった。

光散乱を用いた分子量測定により,ポリスチレンシートの分子量は約30万とわかり,そのサイズは約100nmであると見積もられた。分子レベルで二次元状のシート構造を持ち,従来の紐状高分子とは大きくことなる形状であることも明らかになった。

このMOFを鋳型とした合成手法はモノマーの種類を選ばず,金属と有機物の組み合わせにより自在に構造設計できる。MOFの隙間の広さを約1.2nmに調整し,同様にモノマーの架橋重合を行なったところ,隙間の広さに応じた厚い高分子シートも得られることもわかり,シートの厚さも自在に制御できることが示された。

さらにこの高分子シートは,従来の高分子とは異なる性質を持っていることがわかった。一般的な高分子は紐状の分子構造を持っており互いに絡み合うが,高分子シートは原理的に絡み合えないため,これまで知られていなかった性質を示すことも発見した。

研究グループは,今後,高分子シートを添加剤として利用した高分子の物性制御法の開拓も進め,より汎用的な技術展開を図るとしている。

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