量子科学技術研究開発機構(量研),大阪大学,九州大学の研究グループは,量研関西研の超高強度レーザー装置「J-KAREN(ジェイ カレン)」を用い銀標的に照射することで,既存技術のイオン加速器の1千万倍に相当する1mあたり83兆Vの電場が発生することを実証し,銀イオンを瞬間的に光速の20%に加速することに成功した(ニュースリリース)。
宇宙創成時に迫るツールとして,通常は大型の重イオン加速器が用いられ,粒子を光速近くまで加速し衝突させることで,極限的に高密度なプラズマ状態を地球上で作り出す方法がとられている。しかし重イオン加速器では,最終的に光速に近い状態まで粒子を加速するのに長い距離が必要となる。
そのため,ピークパワーがペタワットに及ぶ超高強度のレーザー光を物質にあてることで,多価イオンを生成するのと同時に高エネルギーの加速を起こすレーザーイオン加速は,加速器の飛躍的な小型化につながる効率的な加速手法として注目されている。
今回,研究グループは,J-KARENレーザーの,レーザー光自身の波形形状を最適化しながら銀薄膜に照射し,銀の多価イオンを加速して取り出すという実験を行なった。その結果,高強度のレーザー光により銀薄膜と真空の境界面において,雷雲の10億倍となる83TV/mという世界最高値の電場の生成,原子番号が47番の重元素である銀原子から,最高で45個の電子が剥がされた45価の銀イオン生成,及びこれまでで最大となる光速の20%に相当する2.7GeVという高エネルギーに加速できていることを実証した。
さらに実験結果を詳細に解析した結果,高強度のレーザー光によるイオン生成や電場発生には,レーザーパルスの形状(パルスの立ち上がり方)が重要な役割を果たしていることを解明した。この結果は,重元素の場合だけでなく低元素を対象としたレーザー加速に対しても有効であり,陽子線や低元素イオンの高エネルギー加速に向けた指標となることが分かった。
量研では,今回得られた知見を活用して量子メス(次世代小型高性能重粒子線がん治療装置)の早期実現を目指す。また,今後高強度レーザー装置が発展していくと,より重い元素を高エネルギーに加速することが出来るようになり,宇宙の謎に迫るような宇宙物理の研究や短寿命核種の生成などの原子核物理の実験研究が実験室レベルの施設で可能になるとしている。