九州大学の研究グループは,日本での近視性黄斑症の発症率が他のアジア圏よりも顕著に高率であり,その発症に加齢と眼球形態がそれぞれ独立して関連していることを明らかにした(ニュースリリース)。
近視性黄斑症は,近視の重篤な合併症の一つであり,日本の失明原因の上位を占める疾患。さらに,近年の世界規模の近視人口の増加により,近視性黄斑症の患者数が増加傾向にあることが公衆衛生上重要な問題となっている。しかし,この疾患の発症率に加え,追跡調査による危険因子の検討は世界でもなされていなかった。
同大では,福岡県久山町(人口約8,400人)の地域住民を対象に,50年間以上にわたり生活習慣病(脳卒中・虚血性心疾患、悪性腫瘍・認知症など)の疫学調査(久山町研究)を行なっている。今回,この久山町研究の追跡調査の成績を用いて調査を行なった。
研究グループは,近視性黄斑症のない久山町住民2,164名を5年間追跡し,日本人の地域一般住民における近視性黄斑症の発症率およびその危険因子を検討した。その結果,近視性黄斑症の5年発症率は1.1%であり,他のアジア圏の既存報告(0.08%-0.12%)と比べ,顕著に高率だった。さらに,近視性黄斑症の発症には加齢と眼球が前後方向に伸長する眼球形態変化がそれぞれ独立して影響することを明らかにした。
この研究成果は,近視性黄斑症発症の実態把握と失明予防策を講じる上で有益な情報であるとともに,いまだ明らかでない近視性黄斑症の発症機序を解明する一助となる重要な疫学的知見となるもの。
近年,世界規模で近視および近視性黄斑症は増加傾向にあり,今後近視性黄斑症における視覚障害に関する課題の重要性は増していくと考えられているという。研究グループは,この研究により近視性黄斑症の発症の実態と機序に関わるエビデンスを世界に先駆けて発信できたことについて,大変意義のあることだとしている。