理研,電子線回折の自動測定システムを開発

理化学研究所(理研)は,生体分子,薬剤,高分子材料などの微小な結晶から電子線回折を半自動で測定するシステムを開発した(ニュースリリース)。

微小結晶や薄い結晶から分子の立体構造を調べる場合,X線結晶構造解析では,大型放射光施設「SPring-8」やX線自由電子レーザー施設「SACLA」の強力なX線を用いても有用な情報を得られないことがある。一方,電子線はX線より十万倍も強く試料に散乱されるため,多くの場合,微小で薄い結晶からでも高い空間分解能で回折点を観測できる。

この特徴を利用した電子線三次元結晶構造解析法は,低・中分子量の有機化合物からタンパク質などの生体高分子の構造解析に大きな可能性を秘めた技術。しかし,電子顕微鏡を常時操作しながら測定を行なうため,時間と手間がかかるという課題があった。

そこで今回,研究グループは,日本電子のクライオ電子顕微鏡「CRYO ARM 300」および汎用の電子顕微鏡を用いて,電子線回折の自動測定システムの開発に取り組んだ。

研究グループは2019年に「CRYO ARM 300」を用いて,世界最高精度の構造解析を実現した。まず,その際に開発した電子顕微鏡のデータ測定支援と回折データ測定のための統合プログラムを自動測定用に高度化した。そして,単粒子解析の画像データの自動測定ソフトウェアと組み合わせ,効率の良いシステムを完成した。

結晶の電子線回折データから分子の立体構造を得るには,三次元空間に分布する回折データを,結晶を回転させることで漏れなく取得する必要がある。しかし多くの場合,個々の結晶からは限られた範囲のデータしか取得できない。また,結晶ごとの品質の違い,低い対称性の結晶,微小結晶からの信号は相対的に低いことなど解析を難しくする問題もある。

そこで,多くの結晶データからの情報を集めて補うことが,高精度での解析に重要になるが,今回開発したシステムにより,多くの微小結晶から回折データの回転測定を精度良く半自動で行なうことが可能になった。試料に合わせた最適な測定条件の調整も容易で,データごとに測定条件が記録される。

また,長時間測定に必要な液体窒素の供給や電子銃の定期的な活性化にも対応しており,撮影開始後は,人が管理することなく完全に自動で撮影を続けることができる。そして,このシステムを用いて,多くの重要な機能を持つ分子の構造を高効率かつ高精度で解析することに成功した。

この成果により,これまで難しかった重要な分子の構造を高効率かつ高精度で解析できるようになったことで,今後,創薬や新しい素材開発などに利用されると期待できるとしている。

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